WEB予約

ひだ胃腸内視鏡クリニック

ご予約・お問い合わせ

0798-26-5070

胃腸内科 / 内視鏡内科

阪神西宮駅徒歩30秒

炎症性腸疾患(IBD)患者さんのコロナワクチン接種について

炎症性腸疾患(IBD)患者さんのコロナワクチン接種について

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今日から東京、大阪、兵庫、京都の4都府県を対象にした緊急事態宣言が発令されました。

1月24日のブログで書いていた懸念が、残念ながらそのまま現実になってしまいました・・・

 

とくに関西では、ほとんどのウイルスがイギリスで最初に見つかった感染力の強い変異型に置き換わり、猛威を振るっています。

 

なぜ感染力が強いのか?

このウイルスには「N501Y」と呼ばれる変異があり、ウイルスがヒトに感染する足がかりとなるスパイクタンパクがヒトの細胞と結合しやすいように変化してるためです。

ウイルスの量が微量でも感染が成立してしまうため、これまでとは違い子供を含めたどの年代の方にも感染が起きやすくなっています。さらに、重症化する危険性が高いとの指摘もあります。

事実、大阪や兵庫では重症患者の増加により「医療ひっ迫」ではなく、既に「医療崩壊」に直面している状況です。

現場では、患者さんの入院の可否や人工呼吸器など機器の割り当てなどに関して優先順位を付けて判断せざるを得ない、すなわち「誰を助けるべきなのか?」そして「 誰を‟助けない”べきなのか?」という医療従事者の心が折れるような厳しい「いのちの選別」まで迫られている危機的な状況だという声が聞こえてきます。

とても悲しく、やるせない気持ちになりますが、これが現実です。

 

日本におけるコロナとの闘いは「またちょっと増えてきたね」という程度の認識では済まない、これまでとは明らかに異なる局面に入りました。

 

たった17日間の緊急事態宣言中に完全に収束することは当然ながら期待できないのですが、少なくとも医療崩壊の状況からは脱しなくてはなりません。

終わりの見えないウイルスとの闘いにうんざりされていると思いますが、ワクチンの接種が進んで感染が収まるまで、なんとか耐え凌ぎましょう。

 

さて、わたしたちのクリニックでは多くの炎症性腸疾患(IBD:潰瘍性大腸炎とクローン病)患者さんを診療しています。

IBD患者さんに対する新型コロナウイルスワクチンの接種は世界各国で始まったばかりですので、安全性や有効性に関するデータはまだありません。

 

しかし、現時点での世界のIBDの専門家のワクチンに対する考えについて、国際炎症性腸疾患研究会議(IOIBD)から出された声明が4月に論文化されましたので、重要な部分を抜粋してご紹介させていただきます。(Siegel CA, et al. Gut 2021 Vol 70 635-640)

各々の声明に対して専門家が同意した率(最大100%)と同意の強さ(最大10)が示されています。同意率が高いほど専門家の意見が一致している、同意の強さが高いほどその意見に確証が持てていると理解してもらって良いかと思います。

 

1.IBD患者は新型コロナウイルスワクチンの接種を受けるべきである。同意率:98.4%、同意の強さ9.2

2.IBD患者に新型コロナウイルスワクチンを接種するのに最適な時期は、最も早い機会に行うことである。同意率:95.3%、同意の強さ8.91

3.IBDの疾患活動性は、新型コロナウイルスワクチンの接種時期に影響を与えるべきではない。同意率:90%、同意の強さ8.5

4.新型コロナウイルスワクチンを接種しても、IBDの再燃を引き起こす可能性は低い。同意率:89.1%、同意の強さ8.31

5.新型コロナウイルスワクチンは、生物学的製剤の導入期にあるIBD患者に対して、治療サイクルのタイミングに関係なく接種することができる。同意率:97.5%、同意の強さ8.33

6.新型コロナウイルスワクチンは、生物学的製剤の維持期にあるIBD患者に対して、治療サイクルのタイミングに関係なく接種することができる。同意率:100%、同意の強さ8.93

7.IBD患者は様々なワクチンに対して免疫反応を起こすことができるが、免疫統御療法によってその反応が鈍ることがある。同意率:98.4%、同意の強さ8.79

8.新型コロナウイルスワクチンの接種はIBD患者のCOVID-19予防に有効である。同意率:82.8%、同意の強さ8.13

9.IBD患者はIBDでない患者と同じ投与量のワクチンを接種するべきである。同意率:85.9%、同意の強さ8.44

10.mRNAワクチンは、IBD患者に投与しても安全である。同意率:82.5%、同意の強さ7.92

11.ウイルスベクターワクチンは、IBD患者に投与しても安全である。同意率:95.2%、同意の強さ8.81

 

まとめますと、有効性や安全性の評価はまだこれからであるものの、IBDの患者さんは病気の活動性や生物学的製剤などの治療の有無にかかわらず、できるだけ早い段階でワクチンを接種するべきだというのが現時点での専門家の見解です。

ただし、7に挙げられるように、抗 TNF 抗体製剤などの免役を抑える治療を受けているIBD患者さんでは、インフルエンザ、B 型肝炎ウイルス、肺炎球菌に対するワクチンを接種しても抗体ができにくく、ワクチンの有効性が落ちることが報告されており、新型コロナウイルスワクチンについても、もしかしたら同じようなことがあるのかも知れません。

 

日本より先行している海外のデータを、今後も注視していこうと思います。

 

西宮市田中町5-2西宮駅前メディカルビル3F

「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ