海藻のヌメリ成分が食道を守る
クリニックにも「胸やけ」や「のどの詰まり」を訴える胃食道逆流症(GERD)方が続々と来られています。
日本人のGERD患者さんは年々増えており、今や少なくとも10人に1人が逆流性食道炎だと推定されています。
なぜGERDが増えているのかについては以前のブログでも触れましたが、主な要因はピロリ菌の感染率の低下、食生活の変化、現代社会におけるストレスなど。
これらの要因によって胃酸の分泌が増え、その胃酸が食道に逆流することで酸に弱い食道粘膜の炎症や知覚過敏により、胸やけなどの逆流症状が引き起こされます。
食道に悪さをしているのは主に胃酸ですので、胃酸の分泌を抑えるお薬の服用が治療の基本。
症状が改善するまでの速さは胃酸を抑えるお薬のパワーに依存するため、最近では強力な酸分泌抑制剤であるボノプラザン(商品名:タケキャブ)がよく使われています。
ただ、タケキャブさえ飲んでいればGERD患者さんの胸やけ症状がみんなピタッと治まるかと言うと・・・そう簡単にはいかないんですよねぇ。
とくにNERD(ナード)の患者さん。
NERDとは、胸やけを感じているにもかかわらず、内視鏡の見た目には食道の粘膜に全くただれがないケース(非びらん性胃食道逆流症)のこと。
胃酸の逆流や食道の知覚過敏などによって胸やけを「感じている」状態だと考えられており、痩せている女性の方に多く、食道裂孔ヘルニアの合併が少ないという特徴があります。
また、NERDには胃酸以外の腸液などの逆流によって胸やけを起こしている方もおられ、胃酸を抑える薬が効きにくいという特徴もあります。
お薬で胃酸をしっかり押さえているのに、まだ胸やけ症状が治まらない・・・そんな時に私たちが処方するのが、本日のお題の「アルギン酸ナトリウム」(商品名:アルロイドG内用液5%)。
アルギン酸ナトリウムは、コンブ、ワカメ、ヒジキ、モズクなどの海藻類に含まれるヌメリ成分(多糖類)で、昔から増粘剤、ゲル化剤、安定剤として、また水溶性食物繊維としても用いられている天然由来の食品添加物でもあります。
いかにも「海藻から抽出しました!」という雰囲気を醸し出す?緑色のドロッとした液体のお薬で、これが食道の粘膜を覆うことで胃酸の逆流から粘膜を保護する作用を発揮します。
また、胃・十二指腸潰瘍やびらん性胃炎で胃からの出血がある場合には、血液中の鉄やカルシウムと反応してゲル状となり、患部を覆うことで、胃痛を和らげるとともに胃の傷の治癒を促進する作用もあります。
このお薬だけでGERDに劇的に効くわけではありませんが、胃酸分泌を抑えるお薬と組み合わせることで、逆流に伴う症状を和らげてくれます。
しかしながら、ちょっと(いや、だいぶ?)飲みにくいのが玉に瑕。
Google先生に「アルロイドG」と入れると予測キーワードに「アルロイドG まずい」と出てくる始末。
味自体はほんのり甘みのある薄ーいメロン風味なのですが、飲み心地はまさに「液体のり」とのこと。
粘膜保護します感がすごい!・・・とも言えるのですが、食道や胃だけじゃなく、口やのどにも張り付いちゃうんですよねぇ・・・。
これを1回20~60ml、1日3-4回飲むのは、確かになかなか大変です。
ですが、ほとんど吸収されることなく9割が便に排泄されること、そもそも食品にも添加される優秀な天然食物繊維でもありますので、なによりとっても安全なのです。
胸やけで胃酸を抑えるお薬がずっと手放せない方は、ご相談ください。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医