便中カルプロテクチンと便潜血検査:なぜ同時に測るの?
当院では潰瘍性大腸炎およびクローン病の患者さん、とくに症状が落ち着いている寛解期の潰瘍性大腸炎の患者さんに対して、3~4か月に1度を目安に2種類の便検査を行っています。
では、なぜ便を調べるのか?
従来のCRPや赤沈といった血液の検査では、たとえ腸に炎症があったとしてもある程度炎症が強くない限り、ほとんど異常を認めません。
一方で便の検査は、患者さんにとって負担が少ない簡便な検査でありながら、腸の炎症が軽い場合でもその程度を的確に評価できるのです。
便中カルプロテクチン(fecal calprotectin:FCP)については、以前のブログで詳しく書かせていただきました。
腸の炎症を便で調べる!カルプロテクチン検査(2021年3月1日)
カルプロテクチンは、腸に炎症が起こると集まってくる好中球という白血球から分泌されるタンパク質です。
つまり、便中のカルプロテクチン値が高ければ、腸(正確には食道~大腸までの消化管全体)のどこかに炎症があることを意味しています。
もう一つの便検査、免疫学的便潜血検査(fecal immunochemical test:FIT)は、文字通り便に目で見て分からないような血液が混じっていないかを調べる検査です。
本来の目的は大腸がんを発見するためのスクリーニング検査ですが、潰瘍性大腸炎やクローン病によって腸に炎症がある場合でも、数値が上昇します。
炎症によって集まる白血球を調べるFCP、炎症によってにじみ出る赤血球を調べるFIT、これを同時に測ることで腸の炎症のダブルチェックができるわけです。
では、なぜ病気が落ち着いている時に調べるのか?
下痢や血便などの自覚する症状で調子が悪いことが明らかな活動期のIBD患者さんに便検査を行っても、当然ながら高い値が出るだけであまり意味がありません。
わざわざ便を調べるまでもない・・・ということです。
一方、一見落ち着いている寛解の患者さんの中には、症状が出ない程度の弱い炎症が腸に残っている方がおられます。
実は、調子がいいのに便中カルプロテクチン(FCP)や免疫学的便潜血検査(FIT)の値が高かった・・・という方は、その後に再燃が起こりやすいことが分かっています。
つまり、落ち着いている時に定期的に便の検査を行い、数値の変化を見ることで、その方の「未来の再燃」がある程度予測できるのです。
この図は、長沼先生らが2020年に報告された論文から抜粋したものです。
この論文では、FCP:146 mg/kg以上、FIT:77 ng/mL以上を陽性としています。
棒線が下がると、再燃が起きていることを意味しています。
ある時点でFCP・FITともに陰性であった潰瘍性大腸炎の患者さんの12か月後の累積再燃率が8.3%であったのに対し、FCPまたはFITのどちらか一方でも陽性であった方の再燃率は約30%、FCP・FITともに陽性であった方の再燃率は69%にも上りました。
興味深いのは、FITだけが陽性の場合でも、FCPだけが陽性の場合と同じように約3割の再燃が起こること。
つまり、FCPとFITを同時に測ることで、お互いの弱点(本当は炎症があるのに陰性になってしまう:偽陰性)を補い合っているのだと思います。
もちろん、FCP(-)FIT(+)の方の中には、腸の炎症は落ち着いているけど、痔があって潜血だけ数値が高いといった方も含まれますので一概には言えません。
ただ、やはりどちらか一方でも高い場合には、「もしかしたら再燃が起こるかも・・・」と考えて、お腹の調子の変化に注意を払い、お薬を忘れずに服用し、日頃から無理をしないように生活を送ることが大切です。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医
日本炎症性腸疾患学会IBD専門医・指導医