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ひだ胃腸内視鏡クリニック

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腸の炎症を便で調べる!カルプロテクチン検査

腸の炎症を便で調べる!カルプロテクチン検査

潰瘍性大腸炎(UC)の患者さんの治療は、年々目覚ましく進歩しています。

以前は、治療の選択肢が限られていたために、下痢や血便、腹痛などの症状が落ち着いた「臨床的寛解(かんかい)」になることを目標に治療を行っていました。

治療が進歩した今では目標が一歩進み、内視鏡検査でみても腸の表面の粘膜に全く炎症が無い「内視鏡的寛解」または「粘膜治癒」と言われる状態を長い間保つことが、新たな治療の目標となっています。

 

でも、せっかくお腹の調子が落ち着いているのに、「内視鏡的寛解」になっているかどうかを見るためにしょっちゅう大腸カメラを受けるのは、UCの患者さんにとって大きな負担になりますよね。

かと言って炎症の評価のためにこれまで行われてきたCRPや赤沈などの血液検査では、たとえ腸に炎症があったとしてもかなり強くない限りほとんど変化が起こらないうえに、逆に腸以外の体のどこかの炎症、例えばかぜを引いただけでも数値が上がってしまうので、大腸カメラの代わりにはなりませんでした。

患者さんに負担の少ない簡単な検査で、腸の炎症を的確に評価できないものか・・・

 

そこで今、注目されているのが「便中カルプロテクチン検査」です。

カルプロテクチンは、主に好中球という白血球から分泌されるタンパク質です。腸に炎症が起こると好中球が集まってきます。そこから分泌されるカルプロテクチンは、便に混ざって排泄されます。便に含まれるカルプロテクチンの濃度を測ることで、大腸カメラで見る代わりに腸にどの程度炎症があるのかが分かるのです。

CRPとは違い、腸の炎症だけを反映していますので、便中カルプロテクチンの数値が高いということは、腸のどこかに炎症があることを意味します。下痢や血便などの自覚症状に現れないようなわずかな腸の炎症でも、捉えることができます。

しかも、ただ便を採るだけの簡単な検査ですので、定期的に調べることで体に負担を掛けずに腸の炎症をモニタリングすることができるのです。

 

この「便中カルプロテクチン検査」は、わたしたちのクリニックの「売り」の1つです。

実は大学病院に勤務していた時にも測ることはできたのですが、外注の検査会社に測定を委託していために結果が分かるまで数週間を要していました。当然、UCの患者さんに結果を説明するのは2〜3ヶ月後の次回外来ということになってしまいます。検査の数値が高かったとしても、対応が後手後手になってしまってしまうことが問題で、「何とかしたいなぁ・・・」と常々思っていました。

そこで、クリニックの開業時に思い切って専用の測定機器を置くことに決めました。便を持ってきていただいた当日、ほんの10分程度お待ちいただいている間にカルプロテクチンを測定することができ、その場で説明ができます。その点では大学病院以上のクオリティーです。

そして、この「リアルタイム」に結果が分かることに、とても大きな意味があります。

目に見える数値なので、UCの患者さんにとっても客観的に分かりやすいのも大事なポイントです。

便中カルプロテクチンの値は200以下だとかなり炎症は落ち着いていると言え、100以下の2桁が理想的です。

 

「カルプロテクチンが20だから今の治療がとても良く効いていますね。お薬を減らしてみましょうか?」

「前回は400だったけど、治療を頑張られたので15まで下がりましたよ!」

「180でまあまあ良いですが、前回の60から比べると上がってきているから気を付けてください。」

「調子は落ち着いているけど550もあるから、一度内視鏡検査でみてから治療を追加した方が良さそうですね。」

「少し下痢しているようだけど、カルプロテクチンが10だから炎症のせいじゃなくて腸が過敏になっている可能性がありますね。」

 

などなど、具体的に数値を知ることは、現状の客観的な評価にとどまらず、症状が再燃する前の「予兆」を知ることができたり、今後の検査や治療の方針を立てたりすることにもつながります。

 

この検査は、とくに症状が落ち着いている「臨床的寛解」の時に行うことに意味があります。血便が出ているような活動期の方は、やる前から高い数値になるのは分かり切っています。それが500か2000かで炎症の程度は多少分かるのですが、あまり大きな意味はありません。

 

では、なぜ症状が落ち着いている「臨床的寛解」の時にわざわざ検査をする必要があるのでしょうか?

患者さんは何も困っているわけではないのに・・・。

 

実は、「臨床的寛解」であっても内視鏡でみると炎症がまだ残っているという場合には、症状の「再燃」が早く起こりやすいことが分かっています。

また、以前のブログでお話ししたように、UCの患者さんは長い間腸に炎症がくすぶった状態が続くと、大腸がんが発生する危険性が高まります。

症状が落ち着いているだけでなく、「内視鏡的寛解」を目指して治療し、その状態を維持することが将来の再燃や発がんを抑えることに重要なのです。カルプロテクチンが2桁なら「内視鏡的寛解」とほぼイコールです。この状態がずっと続くことが理想的です。

調子が良くても便中カルプロテクチンの数値が高い場合には、内視鏡検査で評価したうえで、将来を見据えて治療の強化を考えた方が良いかもしれません。

 

このように、炎症性腸疾患(IBD)の世界は、治療だけでなく検査もどんどん進歩してきています。

患者さんの腸の炎症を、便の検査で安全、簡便かつ的確にモニタリングできるようになったのは、とても大きな前進です。

また最近、血液検査でCRPよりも感度が高いロイシンリッチα2グリコプロテイン(LRG)という検査も新たに保険適応となっていますので、またの機会にお話ししたいと思います。

 

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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ