衝撃!母親のがんが赤ちゃんに移る!?
3日前ネットで駆け巡ったニュースを見て衝撃を受けました。
なんと、「母親の子宮頸がんが出産のときに赤ちゃんに転移した」という内容です。
今回世界で初めて確認された事象のようですが、医師の立場からも「えっ!! 本当にそんなことが起こるの・・・」というレベルの衝撃的な話です。
日本の国立がん研究センターなどのグループが権威ある医学誌「The New England Journal of Medicine」に発表した論文によると、お2人の小児肺がん(1歳と6歳)のがん細胞の遺伝子を調べたところ、母親が患っていた子宮頸がんから移行したものであることが証明されたとのことでした。
赤ちゃんは、生まれる直前まで羊水とそれを包む卵膜によって外からの衝撃や菌やウイルスの感染から守られています。腟から赤ちゃんを分娩する際には卵膜が破れて羊水が外に出てきますが(破水)、この時に羊水にお母さんの子宮頸がん細胞が混じる可能性があります。
そして、生まれた赤ちゃんが産声をあげた時にがん細胞が混じった羊水を口から吸い込んでしまい、それが肺の中で増えて肺がんになってしまったものと考えられています。
図は国立がんセンタープレスリリースより転載
しかし、もしも何かの拍子に他人のがん細胞がちょっとぐらい体の中に入ったとしても(大人ではそんなことは日常生活で起こり得ませんが)、それが増殖してがんを発症するなんて、普通では考えられません。他人の細胞、しかもがん細胞は完全に「異物」なので、自身の免疫防御システムによってあっと言う間に消し去ってしまうはずだからです。
ところが、赤ちゃんは違います。
お母さんの胎内から出てきたばかりで、まだ免疫システムができあがっていません。何が体によくて何が悪いものなのか、判断が付かないのです。まずは外の世界さまざまなもの受け入れることから始める必要があります。
この「免疫寛容」と言われる状態のところに母親のがん細胞が入ってきたため、「異物」とは認識できずに排除することができなかったのです。
お母さんはお2人とも出産した時には自分が子宮頸がんであることを知らずに、出産後に診断されたとのことでした。
幸いなことにお子さんの肺がんは、1人は免疫療法で、もう1人は手術で回復しているようですが、残念ながらお母さんはお2人とも子宮頸がんでお亡くなりになりました。
妻を亡くし、子供の病にも直面し、しかもその病が妻から移ったものだと知らされたときの残されたお父さんやご家族の気持ちを考えると、本当にいたたまれない気持ちになります。
これは極めてまれなケースだとは思いますが、こういったことが起こりえるという事実に衝撃を受けました。
ただ、事実を知れば対応することもできるはずです。
日本では子宮頸がんに毎年約1万人がかかり、約3000人が亡くなっています。そしてその原因は、ほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染です。
17歳未満でHPVワクチンを接種することにより子宮頸がんを88%減少させることができたというスウェーデンからの報告があるように、子宮頸がんは多くがワクチンで予防できるのです。海外ではHPVワクチン接種はもはや常識で、70%を超えるような接種率となっています。
ところが日本では、副反応の問題が過剰にマスコミで上げられたことが影響し、ワクチン接種率はたったの1%。実際に重篤な副反応が起こるのは100万〜400万接種に1回程度と極めて低いことなのに、がん予防の大きなメリットよりも怖いワクチンだというデメリットばかりに注目が集まってしまいました・・・
では、せめて早期発見のための子宮がん検診を受けているのかというと、欧米の子宮がん検診率が約80%なのに比べて、日本はたったの20%。さらに、自分の身を守るためには20歳代から受ける必要がありますが、この年代は特に受診率が低く、若年での死亡率は増加してきています。
今回のケースでも、もしもせめて出産前に子宮頸がんの存在が分かっていれば・・・帝王切開での出産を選ぶことができ、少なくともお子さんは肺がんにはならすに済んだはずです。
残念ながら、がん予防の意識がとても低い日本だからこそ、今回のような悲しいケースが報告されたのだと言えるのかも知れません。
わたしたち胃腸科で診る胃がんは、ほとんどがピロリ菌の感染によって起こります。感染しているかどうかを若いうちに調べて除菌治療を受ければ、胃がんの発生を大きく抑えることができます。
大腸がんもしかり。大腸カメラを定期的に受けて、良性ポリープ(腺腫)のうちに切除しておけば、多くの大腸がんが予防できます。
日本で「がん予防」という意識が、少しでも高まって行くことを切に願っています。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ