突然腹痛、下痢のち血便・・・意外とよくある「虚血性大腸炎」
今日の早朝5時、突然の腹痛で目が覚めました。
「うおっ、やばい! これ、虚血性大腸炎ちゃうん? そう言えば昨日、サウナの後で大量に肉食って酒も飲んだしなぁ・・・」
と思いながらトイレに駆け込み、脂汗をかきつつ七転八倒。
ぐおぉ・・・(;゚Д゚)
最初は硬めの便が出て、その後は下痢です。
ぬおぉ・・・(;゚Д゚)
下痢が出ていった後は何とか腹痛が治まり、血便は出なかったので「ほっ」としましたが、なんとなく左下腹部に違和感が残ります。
うーん、こりゃぁ、やはり軽い虚血があったのかも・・・
「虚血性大腸炎」のことをブログで書こうと昨日から準備していた矢先に、まさかの自分がリアルにプチ体験するというミラクル。
やはり「持ってる」なぁ。
(そんな強運いらんわ)
わたしの場合は「虚血性大腸炎未遂事件」ぐらいで済みましたが、クリニックにはこのような症状の患者さんがよく来られます。
虚血性大腸炎の特徴を表すキーワードは、
1.突然に起こる
2.脂汗が出るような強い腹痛
3.数回便が出た後に下痢
4.そして血便
です。
最初に、何の前触れもなく下腹部に突然ギューッと絞られる、あるいは差し込むような強烈な痛みが来ます。
トイレに駆け込んでもすぐには便が出ないことが多く、脂汗をかきながらもがき苦しんでいると、吐き気や嘔吐、めまいを催すこともあります。
やっと便が出だしたと思ったら(最初は硬い便が多い)、次第に下痢になり、何回か出るうちに真っ赤な血が混じりだす・・・というのが典型的な症状です。
「ラブ・ストーリーは突然に」起こっても困りませんが(いや困るか?)、「強い腹痛は突然に」起こるととても困ります。
今までなんともなかったのに、突然めちゃくちゃお腹が痛くなって血便まで出た!?
便器が真っ赤に染まったりしたら、そりゃあびっくりするし、焦りますよね。
クリニックに飛び込んでこられるこのような典型的な症状の方は、お話を聞かせていただいた段階で、検査をするまでもなく虚血性大腸炎の診断がほぼ確定します。
それだけこの病気は、症状の起こり方が特徴的なのです。
お腹の診察で下腹部〜左側腹部あたりを押さえた時に痛みがあれば、さらに間違いなしです。
虚血性大腸炎とは、大腸への血液の流れが悪くなること(=虚血)によって、大腸に炎症(粘膜のただれや潰瘍)が起こる病気です。
心筋梗塞などと同じ「血管の病気」ですので、何の前触れもなく突然に起こるのです。
とくに左側の大腸(図の青い矢印の部位:下行結腸のあたり)に起りやすいのですが、大腸の中でこの部位を栄養している血管がとても細く、ほんの「ちょっとしたこと」で血流が低下しやすいためだと考えられています。
「ちょっとしたこと」には大きく分けて2つの原因があります。
1つは血管側の原因です。
血管が動脈硬化を起こしていてもともと細い、血液がドロドロで固まりやすい、脱水で血流が減っている、などが引き金になります。
ですので、高血圧、糖尿病、高脂血症といった生活習慣病をお持ちの方に発症する危険性が高く、時期としては脱水が起こりやすい夏場や、寒さで血管が痙攣する冬場が要注意です。
もう1つは大腸側の原因です。
最も多い引き金は「便秘」です。
硬い便を出そうと強くいきんだ際に腸の内圧が高まると、大腸粘膜への血液の流れが悪くなってしまいます。
また、腸の動きを過剰に刺激する「下剤の服用」や、腸の筋肉を痙攣させる「脂っこいものや刺激物の食べ過ぎ」も引き金になります。
この2つの原因が絡み合って虚血性大腸炎が起こりますので、糖尿病などの基礎疾患がある便秘がちな高齢女性の発症が典型的だとされています。
ですが、決して高齢女性だけの病気ではありません。
若い女性の方にも、便秘などをきっかけに虚血性大腸炎を起こす方が結構いらっしゃいます。
また、大腸内視鏡を受ける前の下剤の服用中(前処置)にも、軽い虚血性大腸炎を時々起こされることがあります。
さらに、便秘は無くても、
サウナに入ったあと(脱水)
脂身たっぷりのお肉を食べ(腸の痙攣で倍率ドン!)
お酒を飲む(脱水でさらに倍!!)
(クイズダービー、懐かしいなぁ・・って、何の話や?)
こんな人は要注意です!
(誰の事や?)
さて、この虚血性腸炎ですが、症状の起こり方は派手なのですが、そのほとんどが特別な治療をしなくても自然に治る病気でもあります。
大腸への血液の流れが悪くなるのは通常、一時的なもので、完全な虚血に陥ることは滅多にありません。
範囲や程度にもよりますが、血液の流れも、大腸粘膜に起きた炎症も、時間が経つと共に自然に治っていきます。
大抵の方は軽症ですので、自宅であたたかいスープなどのお腹に優しい消化のよいものを食べて安静に過ごしていただくだけで十分です。
腹痛や血便などの症状は、通常は2-3日のうちに軽快します。
ただし、腹痛や出血がひどい場合には、入院して絶食や点滴が必要なことがあります。
また、完全な虚血によって腸が壊死し、手術を要するような重篤なケースもごく稀にですがあります。
とは言え普通は、特徴的な症状から虚血性腸炎と診断できれば、治療も検査もまずはあわてる必要はないのです。
大腸カメラは、診断を確実にするために有効な方法ですが、発症してすぐの炎症で腸がむくんでいる状態の方に行うと、痛みが強くて苦しいだけですので、わたしは滅多なことでは急性期には行いません。
後日、お腹の症状が落ち着いてから、虚血性大腸炎を起こすきっかけになるような大腸がんや大腸憩室などの他の病気が隠れていないかを、念のために大腸カメラで確認することをお勧めしています。
最後に・・・
この病気は4人に1人ぐらいの割合で再発します。
再発を防ぐためには、虚血の引き金になる便秘や生活習慣病を日ごろからしっかりとケアしておくことが大切です。
わたしも虚血性大腸炎「連続未遂事件」にならないように、今日はお酒と脂ものを控えようと思います。
(今日だけかい!)
西宮市田中町5-2西宮駅前メディカルビル3F
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医