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大腸カメラは何歳まで受けるべき?

大腸カメラは何歳まで受けるべき?

例えば100歳まで一度も大腸カメラを受けることなく大往生でお亡くなりになった方の死因が「大腸がん」でなければ、結果論ですが、その方は一生検査を受ける必要がなかったということになります。

その一方で、検査を受けてこなかったために、若くして大腸がんで命を落としてしまう方もおられます。

 

では、大腸がん検診は何歳から受け始め、何歳になったらやめるべきなのか?

今日は大腸がん検診(または大腸内視鏡検査)の「やめ時」についてお話しします。

 

ご存じの通り、日本は世界一の長寿国です。

2019年の日本人の平均寿命は、女性が87.45歳、男性が81.41歳です。

 

今となっては驚いてしまいますが、実は日本人の平均寿命が男女ともに50歳を超えたのは1947年、75歳を超えたのは1986年のことだそうです。

・・・そんなに昔のことではありませんね。

 

医学の進歩や衛生環境の改善などによって、ヒトの寿命は短期間のうちに劇的に延びているのです。

もはや、「人生90年」の時代が目前になっています。

 

 

では、ご高齢の方には何歳まで大腸内視鏡検査を受けていただくべきなのでしょうか?

 

米国予防医療専門委員会は、「50歳から75歳までの大腸がん検診受診を推奨する」としており、アメリカでは75歳という推奨年齢の上限を定めています。(50〜75歳までは推奨度Aですが、76〜85歳は推奨度C、85歳以上は推奨度Dです。)

その見解を裏付けるように、これまでの米国の論文の結論は、「75歳以上で大腸内視鏡検査を受けても利益はない」とするものでした。(Ann Intern Med. 2017)

 

ところが、2021年6月に新たに発表された米国の論文では、「75歳以上で受けた大腸内視鏡検診においても大腸がんの発症や大腸がんによる死亡の危険性が減る」ということが報告されました。(JAMA Oncol.2021)
つまり、75歳以上のご高齢の方であっても、大腸カメラを受けるメリットがあることが分かってきたのです。

 

この結果を受けて、アメリカで75歳以上の方の大腸がん検診に対する推奨度が変わるのかどうかは定かではありませんが、じゃあ、年齢の制限なくいつまでも内視鏡検査を受けるべきなのか・・・と言うと、これはそう単純な話ではありません。

 

日本の厚労省の指針では、すべてのがん検診に年齢に上限を定めていません。

 

100歳の人が大腸がん検診を受けてももちろん良いわけですが、超高齢の方が便潜血陽性で引っかかった場合に、大腸カメラによる精密検査を安全に受けて頂けるか、そして受けることによってメリットがもたらされるかと言うと、はたしてどうでしょうか?

 

検査の前には、腸をきれいにするためにリットル単位の液体の下剤を飲む必要があります。

少なくとも下剤を飲み込む元気と、便意を催したときに何度もサッとトイレに行ける元気が無いと検査を受けることは難しいでしょう。

 

また、大腸カメラは基本的には安全な検査ですが、持病も多い超高齢の方は肺や心臓に負担がかかる可能性がゼロではありませんし、検査を楽に受けていただくための鎮静剤や鎮痛剤を使用する場合はなおさら注意が必要です。

 

そして、検査を受けて大腸がんが見つかったとしても、手術や抗がん剤による治療をどこまで積極的に受けるのか?体が治療に耐えられるのか?といった問題が出てきます。

 

また、良性の大腸ポリープが見つかった場合にも、数年先に起るかどうか分からない大腸がんの発生を予防するために、危険を冒して取るべきなのか?といった選択を迫られます。

 

結論から言うと、「何歳まで大腸カメラ受けるべきか?」はケースバイケースで答えを出すしかありません。

 

ですが、わたしの考え方は単純です。

「元気かどうか?」 ただ、それだけです。

 

寿命も大切ですが、「元気に自立して過ごせる期間」すなわち健康寿命はもっと大切です。

2021年にWHOが発表した健康寿命においても日本は世界一で、男性が72.6歳、女性が75.5歳でした。

 

確かに、最近の70歳代はまだまだ若くてお元気な方が多い印象です。

そして健康寿命の年齢をはるかに超えていても、とてもお元気で大腸カメラを問題なく受けていただいている患者さまもたくさんおられます。

逆に、健康寿命の平均年齢に達していなくても、持病などで年齢以上に体が弱っている方もおられます。

 

つまり、単純に年齢で区切ることはできないのです。

 

「元気」のバロメーターは色々ありますが、大腸カメラを受けるうえでは

・検査の意味(メリット・デメリット)がちゃんと理解できる「頭の元気さ」

・大量の下剤を飲む際、検査を受ける際に必要な「体の元気さ」

のどちらも大切です。

これをクリアしていれば、80歳代の方でも検査を受けていただいて良いと思います。

 

わたしは、80歳代で大腸カメラを受け、見つけたポリープ(腺腫)をすべて取り除いた患者さんには、検査後に

「大腸に小さいポリープが新たにできて、それが命に係わるようながんに育つには少なくとも7〜8年かかると言われています。2〜3年後に今のままお元気で、もしもご心配であればもう一度大腸カメラを受けていただいてももちろん構いません。ですが、今日の検査を最後にしていただいても、大腸がんで命を落とす心配はほとんどないでしょう。もしも、100歳までお元気だったら保証はできませんけど・・・」

とお話ししています。

 

この話を聞いて

元気だし、心配だからと再度検査を受けるのも良し。

もう大丈夫だと安心して検査を止めるのもまた良し。

 

正解はありませんので、お一人お一人のお考えを尊重したいと思います。

 

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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ