免疫抑制治療を受けているIBD患者さんの新型コロナウイルスワクチン接種について
他国に比べてかなり遅れていた新型コロナウイルスワクチンの接種ですが、防衛省が運営する東京と大阪の大規模接種会場に加え、各地の自治体が独自で接種会場を設置するなどしてようやく少し軌道に乗ってきました。
わたし自身も5/23に無事2回目のワクチン接種を終えることができました。
胃腸科・内視鏡内科という専門特化したクリニックであるため、発熱や呼吸器症状を訴える方を直接診る機会が少ないとは言え、内視鏡検査を受けられる方が無症状のウイルス感染者である可能性もあります。
感染対策はしっかりと行っているものの、ウイルスの飛沫を直接浴びる危険性が低いとは言えない現場ですので、感染せずにワクチン接種までこぎつけることができて正直ほっとました
もちろん、ワクチンを接種してもウイルスの感染を100%防御できるわけではありませんので、これからも油断は禁物です。
ちなみにワクチン接種後の副反応は・・・
わたしの場合1回目、2回目ともに接種した腕の痛みを2-3日感じた程度で、拍子抜けするほど何も起こりませんでした。
とは言え、副反応にはかなり個人差があるのが事実。
クリニックのスタッフの中には頭痛、発熱、倦怠感で数日間苦しめられた人も・・・
副反応はある意味ワクチンの投与に対して体がしっかり免疫応答をしている証拠でもあり、高齢者よりも若年者に強く出る傾向があります。
わたしの場合は明らかに高齢者寄りの反応・・・
これは喜んでよいのか? はたまた悲しむべきなのか?
ちゃんと抗体ができていると良いのですが・・・
さて、IBD患者さんに対する新型コロナウイルスワクチンの接種ですが、これまでの注意点のおさらいと新たに分かってきたことについて書いておきます。
まず、「潰瘍性大腸炎」や「クローン病」という病気を持っているだけでは、新型コロナウイルスワクチンの高齢者の次の優先接種の対象となる「基礎疾患を有する方」には当てはまりません。
世界のデータを見ても、IBDの方がウイルスに感染しやすいとか、重症化しやすいといった懸念は無いようです。
ただし、基礎疾患を有する方には「ステロイドなど、免疫の機能を低下させる治療を受けている」という項目があります。
つまり、何らかの免疫を抑える治療を受けている方は、IBDに限らずワクチンの優先接種対象となります。
IBDの治療の中で免疫抑制治療に該当するのは、下記の薬剤です。
・ステロイド製剤(プレドニン、レクタブル、ステロネマ、プレドネマ、リンデロン坐剤)
・免疫調節剤(イムラン、アザニン、ロイケリン)
・生物学的製剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニー、エンタイビオ、ステラーラ)
・JAK阻害薬(ゼルヤンツ)
とくにステロイド製剤の全身投与はウイルスの感染時に重症化する危険因子となりますので、注意が必要です。
他の免疫抑制治療については特に重症化しやすいという訳ではございませんが、できるかぎり早いタイミングでワクチンを接種することをお勧めいたします。
一方で、ペンタサ、アサコール、リアルダなどの5-ASA製剤の投与や栄養剤、漢方製剤などの治療で安定しているIBD患者さんは、現時点ではワクチン優先接種の対象とはなりませんのでご注意ください。
さて、ワクチン接種について新たに分かってきたことがあります。
免疫抑制治療中のIBD患者さんに対するワクチン接種で最も懸念される事は、ワクチン接種によってIBD自体が悪化したり、副反応が出やすかったりといったものではなく、実は「せっかくワクチンを接種しても抗体ができにくい」ということなのです。
4月25日のブログで「抗 TNF 抗体製剤などの免役を抑える治療を受けているIBD患者さんでは、インフルエンザ、B 型肝炎ウイルス、肺炎球菌に対するワクチンを接種しても抗体ができにくく、ワクチンの有効性が落ちることが報告されており、新型コロナウイルスワクチンについても、もしかしたら同じようなことがあるのかも知れません。」と書きましたが、その後いくつか海外から論文が出てきました。
イギリスのIBD患者さんに対する新型コロナウイルスワクチン接種のデータ(Kennedy NA, et al. Gut 2021)では、抗TNFα抗体製剤であるインフリキシマブ(レミケード)投与中の患者さんは、腸管の免疫だけを選択的に抑えるベドリズマブ(エンタイビオ)を投与中の患者さんに比べて、1回目のワクチンの接種後に抗体価が上がりにくいことが示されました。
免疫調節剤を一緒に投与されている場合は、さらに抗体ができにくいようです。
ただしインフリキシマブを投与中の方でも、2回目のワクチン接種後にはしっかり抗体ができてきますので、1回目の投与後に油断せずに2回目の投与をきちんと適切な時期に受けることが肝心です。
また、IBDやリウマチ患者さんなどを集めたアメリカの報告(Deepak P, et al. medRxiv 2021)では、ステロイドやJAK阻害薬を投与中の患者さんは、新型コロナウイルスワクチン接種後に抗体ができにくいことが示されました。一方で、ベドリズマブ(エンタイビオ)や抗IL-12/23抗体(ステラーラ)投与中の患者さんでは、一般の方と変わりない抗体の産生が期待できるようです。
さて、各国の状況を見ても、ワクチンの接種率の差が経済回復を左右する事態になってきています。
ワクチン接種は早く進めるに越したことはありません。
現在、クリニックでのワクチン接種も検討していますが、個別接種に対応されている医療機関、とくに小規模なクリニックではスタッフがひっきりなしにかかってくる予約の電話対応などに追われて、通常の診療がままならない状態になっていると聞いています。
そして、せっかく時間をかけて予約や説明を行っても、集団接種の予約が遅れて始まるや否や、そちらで早く予約が取れた方から今度はキャンセルの嵐・・・ワクチンは余らせるわけにはいかないので、さらに予約を再調整する必要が出てくる・・・といった悪循環に振り回されてしまっているようです。
通常の診療の合間に、
「多くの予約に対応」し、
「密にならないように人数を調整」し、
「接種後15分〜30分間経過観察」し、
「余りが出ないようにワクチンを使い切る」
というミッションは、スペースもマンパワーも限られるクリニックではかなり酷な事です。
現状ではワクチン接種は、
「行政が予約の対応をすべて行い」、
「密にならない広いスペース」で、
「医師や看護師といった医療資源を1点集中させる」ことができ、
「ワクチンの余りが出ないように調整することも容易」な、
集団接種の会場を各地域で増やすことが、最も効率が良く安全な方法だと思っています。
当院をかかりつけにしていただいている患者さんがワクチン接種をご希望される場合に直接対応したい気持ちはやまやまですが、わたしは当面の間は集団接種会場で接種を担当して、少しでも早くみなさまにワクチン接種が行えるように微力ながらお手伝いしたいと考えています。
もう少し行政の方針やワクチンの流通・取り扱いなどが安定して、クリニックでも接種が可能になった場合にはお知らせいたします。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ