ピロリ菌と大腸がん
えっ? ピロリ菌が関係しているのは「胃がん」なんじゃないの?
・・・確かにその通りなのですが、実はピロリ菌の感染は「胃がん」だけではなく、「大腸がん」の発生にもかなり強く関わっていることが、最近になって分かってきました。
韓国や中国で行われた疫学調査では、ピロリ菌に感染している人は感染していない人と比べて大腸がんやポリープ(腺腫)を発生するリスクが約2倍高まることが示されています。
さらに、今年の3月にはアメリカで行われた大規模なコホート研究において、ピロリ感染が大腸がんの発生率および死亡率を上げる可能性があるという結果が報告されました。
Shaijia C Shah,et al . Journal of clinical oncology, 2024
内容を要約すると、
・ピロリ菌の感染群は感染がない群と比較して、大腸がんの発生リスクが18%、大腸がんによる死亡リスクが12%高かった。
・ピロリ菌がいて除菌治療を受けた群は、ピロリ菌未除菌の群と比較して、追跡期間の15年間を通じて大腸がんの発生率と死亡率が有意に低かった(絶対リスク低下23-0.35%)。
これらの結果は、ピロリ菌の感染が胃がんのみならず、大腸がんの発生や進行にも強く関わっていることを示しています。
では、なぜ胃にしか感染しないはずのピロリ菌が、遠く離れた大腸がんのリスクまで上げるのでしょうか?
その原因にていては、研究が進んでいる最中ですが、
・ピロリ菌の感染は胃の細菌叢に影響を与えるだけでなく、大腸の腸内細菌叢にまで変化をもたらすこと
・ピロリ菌の感染は胃の免疫細胞の応答に影響を与えるだけでなく、大腸の免疫にまで変化をもたらすこと(上部消化管と下部消化管の間の免疫クロストーク)
といったことが、主なメカニズムとして浮かび上がってきています。
ですので、ピロリ菌感染があった方は定期的な胃カメラだけでなく、大腸カメラも受けることをお勧めします。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医
日本炎症性腸疾患学会専門医・指導医