ノロウイルスにご用心:その②
ノロウイルスに感染すると、胃をひっくり返すような吐き気や嘔吐に突然襲われ、下痢や腹痛も生じます。
とても辛い症状ですが、通常は1〜2日程度で症状のピークは過ぎ、ウイルスが出ていくと自然に治ってしまう病気でもあります。
新型コロナウイルスと同様、ノロウイルスには有効な抗ウイルス薬や予防するためのワクチンは今のところ存在しません。
突然の激しい胃腸症状に驚いて多くの方が医療機関を受診されますが、有効な治療方法があるわけではありませんので、実際に行われるのは脱水に対する対象療法だけです。
嘔吐・下痢で体の水分が失われるうえに、吐き気が強く水分が摂取できない状態が続くと脱水になります。とくに抵抗力の弱いご高齢の方は注意が必要で、脱水症状がひどい場合は点滴が必要になります。
逆に言うと、吐き気が少し落ち着き、水分が自力で摂れるようであれば、あわてて医療機関に受診する必要は全く無いのです。
「水を飲むと余計に下痢するから…」と言って水分を摂らない方もいらっしゃいますが、それは間違いです。下痢の時こそいつも以上に水分をこまめに摂る必要があり、食べられるなら消化の良い食事も摂って大丈夫です。
嘔吐や下痢といった症状は、腸の中で増えたウイルスを体から出すための「治すために必要な正常な体の反応」ですので、下痢止めや吐き気止めなどの薬は不要です・・・と言うか、かえって治癒を遅らせかねないので基本的に処方はしません。
つまり、病院に行って薬を貰うことにほとんど意味は無く、「自然に治癒する力」に任せるしかないわけです。
さて、症状が出た本人は数日で自然に治るのですが、非常に感染力が強いウイルスですので同時に他の人にウイルスをうつさないように気を付ける必要があります。先にどこかでウイルスを貰った子供が嘔吐・下痢で発症し、2-3日後に今度は親が嘔吐・下痢・・・というのがよくあるパターンですので、家庭内で感染を広げないように注意してください。
嘔吐物や下痢便の中には腸の中で増えたウイルスが大量に含まれており、これを介してヒトからヒトへ感染が広まります。症状が治まった後も数日間はウイルスの排泄が続くと言われていますので、感染を広めない対策を適切に行う必要があります。
ウイルスをまき散らさないようにするためには、感染対策の基本である「手洗い」がとても重要です。
一方で、新型コロナウイルスの感染対策として有効なアルコール消毒は、ノロウイルスにはあまり効かないと言われています。
コロナやインフルエンザは外側がエンベロープという膜で覆われており、アルコールでこの膜を破壊することでウイルスが失活します。ところが、ノロウイルスはエンベロープとという膜をそもそも持っていないので、アルコールでは十分に失活しないのです。
ノロウイルスの感染性を奪うには、次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒するか、85℃以上で少なくとも1分以上加熱する必要があるとされています。
聞きなれない次亜塩素酸ナトリウムですが、どのご家庭にもあるハイターやキッチンハイターなど「塩素系漂白剤」と言われる製品の主成分ですので、これを薄めて使うことで代用できます。汚染されているトイレの便器やドアノブ、手洗い場はこれでしっかりと消毒しましょう。キッチン用品は熱湯消毒してください。
どうしても医療機関に受診が必要な症状がある場合は、院内でウイルスを広げないためにしっかりと手洗いをした上でご来院いただけると助かります。
さて、今年の冬はコロナ禍という特殊な状況ですので、それほど大きなノロウイルスの流行は無く、ニュースでもあまり話題に上がることはないかも知れません。
ですが、忘れてはいけないのが感染の蔓延によって高齢者を中心に嘔吐による誤嚥などで命を落とされる方が毎年少なからずいらっしゃるという事実です。
ノロウイルスは大元の原因となる牡蠣さえ食べないようにすれば、ほぼ撲滅できる・・・と分かっていても、日本だけでなく世界中で愛されている牡蠣の生食文化は、そう簡単には無くならないのでしょうね。
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