アニサキスにまつわるエトセトラ:その3
2012年に改訂された食品衛生法によって、アニサキス症は「食中毒」として取り扱われるようになりました。
ヒトに食べられたアニサキスの幼体は、魚の身から抜け出し、胃の粘膜に突き刺さります。
これが「急性胃アニサキス症」で、食後数時間〜十数時間後にみぞおちに激しい痛みや吐き気を催します。
これは、わたしが大学の卒業文集(1995年!)に書いた、アニサキスの漫画です。(いがらしみきおさんのラッコキャラ「ぼのぼの」を拝借)
卒業文集にコレとは・・・当時からふざけてるなぁ・・・。
わたし自身は、幸いなことに今までアニサキスに「当たった」経験はありませんが、急性胃アニサキス症になって医療機関に受診される患者さんの多くは、体をくの字に曲げて脂汗をかきながら苦悶の表情で来られ、かなり痛いようです。
お刺身を食べるのは大抵夕食ですので、夜中に急に激しく痛みがきて、翌日の朝に医療機関に駆け込む・・・が王道?のパターンですね。
胃の粘膜表面には知覚神経はありませんから、実はこの痛みは胃の粘膜にアニサキスが突き刺さったことによる、直接的な痛みではありません。
アニサキスという寄生虫の侵入に対して起きたアレルギー反応が、痛みの原因だと考えられています。
胃カメラで見ると、アニサキスが刺さっている周りの粘膜が赤くなっていますね。
これが、アレルギー反応によって胃に炎症が起きている状態です。
逆に、アレルギー反応が軽い場合には、胃にアニサキスが突き刺さっても全く症状がでない人もいます。
検診目的で胃カメラを受けた人に、たまたまアニサキスが突き刺さっているのを見つけた・・・なんていう経験もあります。
アニサキス付きの魚を食べたとしても、実は多くの人が知らないうちに無症状で終わってるのかもしれません。
一方で、痛みが強い人にとっては一大事。
辛い痛みを速やかに解消するには、アニサキスを除去するのが一番です。
緊急で胃カメラを行い、胃粘膜に突き刺さっているアニサキスを見つけ、鉗子と呼ばれるピンセットのようなもので虫体を摘まんで抜き取ります。
また、胃カメラがすぐにできない状況の場合には、ステロイドや抗ヒスタミンといったお薬で凌ぐ手もあります。
胃酸を抑えるような一般的な胃薬は、アニサキスの痛みには全く効き目がありませんが、こういったアレルギー反応を抑えるお薬で痛みはかなり軽減します。
アニサキスは、タンパクを分解する酵素を含んだ胃液によって、放っておいても数日(長くても3-4日ほど)で死滅します。
多くの方が経験するのは、このような胃の粘膜に突き刺さる「急性胃アニサキス症」ですが、腸まで流れて腸粘膜に突き刺さり、激しい腹痛を生じる「腸アニサキス症」や、蕁麻疹、血圧低下、呼吸不全などを生じるの「アニサキスアレルギー」になることもあります。
では、最後に予防の話を。
アニサキス症の予防に最も有効なのは、魚介類の生食を避けること、冷凍処理または加熱調理を行うことです。
要は、殺してから食べるか、嫌なら生を避けるしかない。
オランダでは、生食するニシンの酢漬けを調理前に-20 ℃以下で24時間以上冷凍するように法律で義務付け、アニサキス症を激減させたそうです。
また、米国のFDA(食品医薬品局)や、EU(欧州連合)の衛生管理基準でも、生食用の海産物は冷凍処理をするように勧告が出されています。
・・・いや、そりゃそうなんですが、日本人にとっては「言うは易し行うは難し」「横山はやすし西川はきよし」(←どないやっちゅうねんこれしかし)
海に囲まれた島国で、獲れたての新鮮な魚介をわざわざ冷凍してから食べるなんて、日本人のアイデンティティとして無理ですよねぇ・・・
どうしても刺身を食べたい!でも、アニサキスはイヤだ!と言うワガママな方には、
・養殖の魚を選ぶ
・刺身を食べる前によく見る
・神頼み
・気合を入れてよく噛む!
・・・ぐらいでしょうか?
虫も嚙み切ればただのタンパク質。(←言い方)
でも、自分で釣ったイカの刺身を口に入れた途端、よく噛む前に口の粘膜にアニサキスが何匹も突き刺さった!という患者さんを診たこともありますしねぇ・・・(←どんだけ活きがええアニサキスやねん!と思いますが、実話です)
ちなみにわたしは「神頼み」です!(←やっぱり。医者の不養生。エビデンスゼロ。)
当たるも八卦、当たらぬも八卦。
そう言えば最近、1万5000ボルトという雷レベルの電圧を一瞬だけ魚に流してアニサキスを99.9%死滅させる、「アニサキス感電殺虫装置」なるものが開発されたというニュースを見ました。
魚介の生食という日本伝統の文化を絶やすのではなく、おいしく、かつ食中毒も起こさない、安全な食が提供できる技術が発展すると良いですね。
それまでは、わたしたち内視鏡医ががんばりますか。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医