なぜ胸やけする人が増えている?
「若い時は何を食べても胸やけなんかしなかったのになぁ・・・」という方は、多いのではないでしょうか?
「胸やけ」とは、一般的にはみぞおちから喉にかけて感じるひりひり・ジリジリ焼けるような痛みや不快感のことを言います。
とは言え、症状の表現は人それぞれです。
「酸っぱいものが込み上げる」「胸が熱い」「胸がつかえる」「胸が重苦しい」「胸が痛い」「みぞおちが痛い」「背中が張る」といった訴えの場合もありますし、「胃のもたれ」や「ムカつき」のことを胸やけと表現する人もおられます。
こういった症状を訴える方の多くは、胃食道逆流症(GERDガード:gastroesophageal reflux disease)と診断されます。
逆流性食道炎と言う言葉の方がなじみがあるかも知れませんが、逆流性食道炎はGERDの中の一部の方に付く診断名です。その違いは、また後日詳しく書こうと思います。
胸やけの症状は、主に胃酸を含む胃液が食道に逆流することによって起こります。
胃の粘膜とは違い、食道の粘膜には強い酸に対して防御する機能がありません。
そのため、食道の粘膜が逆流してきた胃酸に長い間さらされると、炎症や知覚過敏を生じて胸やけなどの逆流症状が引き起こされてしまうのです。
胸やけは、食後数時間経ってからや夜寝る時に良く起こります。本来ならほっこり一息つけるはずのくつろぎの時間帯に不快な症状が出るのは辛いですよね。
GERDは日常生活の質(QOL :クオリティ オブ ライフ)を低下させる病気として知られています。
ではなぜ、胃酸が逆流してしまうのでしょうか?
胃と食道の境目には下部食道括約筋という筋肉があり、きゅっと締まることで胃液の逆流を防いでいます。
この筋肉がしっかり働いていれば、お腹いっぱいの時にたとえ逆立ちしたとしても、胃の内容物が逆流することはありません。
ところが、足腰など身体の筋肉と同じように内臓の筋肉も年齢と共に衰えて緩んでしまいます。これが、加齢に伴ってげっぷや逆流による胸やけが起こりやすくなる要因の1つです。
また、中年太りや腰が曲がるなどの加齢に伴う体型の変化も、胃の圧迫を引き起こし、逆流がおきやすくなる要因になります。
さらに、高齢化以外にもGERDが増えてきている別の大きな要因があります。
GERDはかつて欧米人に多い病気と考えられていましたが、日本では1990年代後半からGERDの患者さんが急激に増えました
私が医師になった25年前には、胸やけで来院される患者はとても少なかったのです。
急に増えてきた大きな要因・・・それはピロリ菌の感染が減ったことです。
昔は感染していてあたりまえのピロリ菌でしたが、衛生状態が良くなるとともに感染率は年代ごとに大幅に減り、今の10歳代では5%程度になりました。
ピロリ菌には自分の身を守ろうとして胃酸を中和する作用があります。さらに、ピロリ菌の感染によって慢性胃炎が続くと、胃の粘膜が萎縮していき(萎縮性胃炎)、胃液や胃酸の分泌が減少します。つまり、ピロリ菌が感染している人は、胃酸の分泌が年々減っていくのです。
対して、ピロリ菌が感染していない人は、年をとっても胃酸が元気に出るピチピチの(?)若い胃のままです。
つまり、これまではピロリ菌の感染によって胃酸が減り、GERDの発症が自然に抑えられていたのが、ピロリ菌の感染が減ってきた結果、GERDは増えたということです。
胃にはさまざまな悪影響を及ぼすピロリ菌ですが、食道にとっては良いこともしていたのです。
また、ピロリ菌のことだけではなく、日本人の食生活が欧米化によって消化が悪く、胃酸の分泌も増えるお肉や脂っこい食事を好むように変わってきたことも、大きな要因となっています。
現代社会でますます増えているストレスも、胃酸の分泌量を増やし、胃の動きが悪くなるためにGERDを引き起こす要因です。
こうした背景から、最近ではご高齢の方だけでなく、若い方にも胸やけを訴える方が明らかに増えています。
クリニックに胸やけを訴えて来られる患者さんは30歳〜40歳代が中心で、中には10歳代の方もおられます。
ピロリ菌の感染が減ったこと、食事の欧米化だけでなく、コロナ禍でこれまで普通にできていたさまざまなことを自粛せざるを得なくなり、ストレスが溜まる、家で食べて直ぐに横になる、運動不足で体重が増える、一日中前かがみの姿勢でスマートフォンやパソコンを使うためにお腹が常に圧迫されるなどの悪条件が重なり、これまで以上にGERDを発症してしまう人が増えているのでしょう。
適度な運動や上手にストレスを発散するように心がけ、GERDの発症を予防しましょう。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ