Quality of life(クオリティ オブ ライフ)
炎症性腸疾患(IBD:潰瘍性大腸炎とクローン病)は、10代や20代といった若い世代に発症することが多い病気です。
下痢や腹痛、血便といったおなかの症状の再燃(悪くなること)と寛解(落ち着くこと)を慢性的に繰り返すやっかいな病気ですが、最近の目覚ましい治療の進歩によって、多くの方が寛解状態を長く維持できるようになってきました。
治療法が限られていたかつては(といってもほんの7-8年前ですが・・・)、症状が落ち着いた「寛解」の状態に持っていくことが、治療の目標でした。
今ではもう一歩進み、内視鏡検査でみてきれいに治っている「粘膜治癒」の状態が、目指すべき治療の目標になっています。
なぜなら、「粘膜治癒」を達成することが、再燃しにくくなり、将来的な癌の発生を抑えることにもつながるからです。
そしてもう一つ。
治療の進歩によって「粘膜治癒」とともに治療の大切な目標として掲げられようになったのが、「QOLの向上」です。
QOLとはQuality of life(クオリティ オブ ライフ)の頭文字で、「生活の質」と訳されます。
「精神的・身体的・社会的に充実感や満足感をもって、その人らしく日常生活を送れているか?」をあらわす指標の一つです。
IBDに限らず、病気になって医療機関を受診する患者さんたちには、わたしたち医療従事者が病院では直接見たり、感じたりできていない「Life」があります。
「Life」には、「生活」だけでなく「人生」「命」「いきがい」といった意味も含まれます。
若い時に発症することが多いIBDの患者さんは、難病を抱えながら、
学業、受験、就職、就労、転職、結婚、妊娠、出産、子育て、介護、老後・・・
といったさまざまなライフイベントを経験していきます。
病気を抱えていない人でさえ、人生は一筋縄ではいきません。
さらに、IBDという難病によって常にお腹に不安を抱えた状態では、余計な心配が増えてしまいます。
日々の生活の質を向上させるためには、まずは、病気を落ち着けること、そしてその落ち着いた状態を長く維持することが何より大切です。
その人に合った適切な治療を行い、「寛解」や「粘膜治癒」といった目標を達成することで、QOLは確実によくなります。
ただし、「寛解」や「粘膜治癒」の達成が、必ずしもその人の「QOLの向上」にすべて直結しているとは限りません。
「粘膜治癒」を達成している方でも、
・いつ再燃するかと思うと不安が大きい
・友達や同僚にどこまで病気のことを伝えるべきか?
・困ったときに、いったい誰に相談したらいいのか?
といった不安や悩みを抱えていることも、少なくありません。
また、医療従事者からはうまくいっているように見える治療でも、
・治療のための通院時間を確保するのが大変
・経済的な負担が大きい
・飲み薬や坐剤・注腸といった治療を続けるのがつらい
・食事の制限で楽しみがない
といった悩みで、QOLが損なわれていることもあります。
治療が進歩したことで、IBDという病気が落ち着くのはもはや当たり前の時代になりつつあります。(まだまだ、難しいこともありますが・・・)
そして、その先にある「自分らしく、心身ともに満たされたより良い生活」を送るためにどうするべきか?というところにまで視点が向いてきているのは、すばらしいことだと思います。
ですが、IBD患者さんのQOLの向上に向けた取り組みは、まだまだ始まったばかり。
病気を落ち着ける治療以外の部分でも、患者さんのQOLが向上するように、わたしたちができることを考えていきたいと思います。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医