PPIの功罪
- 2023年1月30日
- 逆流性食道炎,胃の病気,機能性ディスペプシア
「PPIの功罪(PCABを含む)」・・・なかなか刺激的なワードですが、これは今月の日本内科学会雑誌のタイトルです。
プロトンポンプ阻害剤(PPI)は胃酸の分泌を強力に抑えるお薬、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(PCAB)はPPIよりもさらに強力に胃酸を抑えるお薬です。
PPIには、オメプラール、オメプラゾン(オメプラゾール製剤)、タケプロン(ランソプラゾール製剤)、パリエット(ラベプラゾール製剤)、ネキシウム(エソメプラゾール製剤)、PCABにはタケキャブ(ボノプラザン製剤)があります。
どちらの薬も、胃・十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、機能性ディスペプシアといった病気の治療や、痛み止め・抗血栓薬を服用中の患者さんに起きる消化性潰瘍の予防として、世界中で広く使われています。
以前のブログでも書きましたが、日本人の胃酸の分泌は以前よりも増えてきています。
これは、ピロリ菌の感染率が減ったために胃の萎縮が起きなくなったことや、食生活の変化が原因です。
そのため、胃酸の分泌過多が原因の一旦となる逆流性食道炎や機能性ディスペプシアといった病気は、年々増えています。
確かに、「胸やけ」や「胃が痛い」といった辛い症状に困っている方にPPIやPCABを投与すると、とてもよく効きます。
われわれ消化器内科医にとっては、もはやなくてはならない治療手段です。
ただ、考えなくてはならないのは薬の「やめ時」。
これらのお薬を、数週間程度の短期間だけ使う分には、稀に起こるアレルギー症状以外には大きな問題はありません。
しかし、長期間に渡って使う場合には、注意するべきことがいくつかあります。
PPIやPCABの長期投与で懸念されている副作用を具体的に挙げると、
・腸管感染症
・腸内細菌叢の乱れ
・胃カルチノイド腫瘍
・胃底腺ポリープ
・胃がん
・骨粗鬆症
・骨折
・肺炎
・ビタミンB12欠乏
・認知症
・腎炎
・心筋梗塞
・脳梗塞
など多岐にわたります。
これらのほとんどは、今のところ「懸念されている」だけで、実際に明らかな因果関係が証明されたわけではありませんので、過度には心配する必要はありません。
ただ、胃酸は本来、食べ物の「消化」や、口から入ってきた病原菌から体を守る「殺菌」、鉄・カルシウム・ビタミンなどの「吸収」など、体にとって大切な役割を担っていることも事実。
胃酸の分泌を強力に薬が抑え続けることで、体になんらかの弊害が出てもおかしくはありません。
つまり、早く止めるに越したことはない。
じゃあ、実際にさっと止められるのかと言うと・・・そう簡単ではありません。
胃酸の分泌が抑えられているのは、当たり前ですが、薬を飲んでいる間だけ。
服薬を止めると胃酸の分泌は元通りに戻りますので、また「焼ける」「痛い」といった症状がぶり返すという方が少なくありません。
胃酸過の原因となる、食べ過ぎ・飲みすぎ、食事の時間が不規則・遅い、運動不足による肥満、過度なストレスなど、根本のところが解決されていないと、薬を止めることはおろか減らすことさえままならないのです。
「漫然と長期に使用されるべきではない」とガイドラインにも書かれている薬剤を、処方し続けなければならないというジレンマ・・・
PPIやPCABに限らず、薬はできることなら「量は最少、期間は最短」で済ませたいもの。
これは患者さんの希望だけでなく、医師も共通の考えです。
薬をやめるためには、薬任せではなく、病気を引き起こしている「根本」に目を向けることが大切です。
もしもの副作用が出てから後悔しないためにも。
西宮市田中町5-2西宮駅前メディカルビル3F
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医