IBDの医療連携
5月25日はクリニックを休診にさせて頂き、東京で開催された第105回日本消化器内視鏡学会総会に参加してきました。
コロナの前は学会や講演会で頻繁に出張していた東京ですが、今回行くのは実に3年以上ぶり。
学科会のランチョンセミナーで講演したテーマは「専門クリニックの立場から考えるIBD診療の医療連携」。
わたしたちのクリニックもそうですが、炎症性腸疾患(IBD)を専門的に診る医師のクリニック開業が、ここ数年の全国的なトレンドになっています。
その理由は、主に3つあると思います。
1つは、IBDの患者さんが益々増えていること。
現在、日本の潰瘍性大腸炎の患者さんは23万人以上、クローン病の患者さんは7万人以上、合計で30万人以上という数にまで増えています。
もはやIBDは希少疾患ではなく、消化器の診療に携わっていれば普通に診る機会がある「Common disease(よくある病気)」に変わりました。
かつては、大学病院や地域の基幹病院に患者さんが集中していましたが、専門医療機関だけではもはや対応しきれないのが現状であり、クリニックにおける診療のニーズが高まっています。
2つ目は、診療の高度化です。
この5-6年の間に、新薬が次々と登場し、IBDの診療は大きく変わりました。
まさに、「イノベーション」という言葉がぴったり当てはまる、革新的な進歩です。
患者さんにとっては恩恵がある一方、専門家であっても知識をアップデートしながら次々と登場する新薬を適切に使い分けることは、簡単ではありません。
また、新規治療だけではなく、病気の活動性を評価するための新たなバイオマーカーの登場、以前から使われている5-ASA製剤の不耐症の問題、新型コロナや帯状疱疹といった感染症に対する対策など、診療するために不可欠な専門知識は多岐にわたるようになりました。
つまり、生半可な知識では、IBD患者さんをちゃんと診療できない。
消化器内科医の中でも、IBD患者さんを「診る・診れない」にはもともと差はあったのですが、この数年でさらに開いてしまった感があります。
3つ目は、治療の主役の場が入院から外来へシフトしたことです。
ほんの数年前まで、難治の方や重症度の高い方は、入院で治療するのが当たり前でした。
ところが、治療の劇的な進歩により、たとえ難治であってもほとんどの方で入院の必要はなく、外来で病気をコントロールできるようになったのです。
入院から外来への治療のシフトは、病院からクリニックへの治療のシフトとも言い換えられます。
病院の外来でできることは、知識さえあればもちろんクリニックでもできます。(むしろ病院よりもっときめ細やかに)
この「病気の一般化」と「診療の高度化」の乖離、そして治療の主役が「外来治療」へ変わったこと・・・これらがIBD専門クリニックの「ニーズ」と「強み」を生んでいる訳です。
わたしたちのようなIBD専門クリニックの役目の1つは、かかりつけ医やIBDが非専門の消化器内科医では対応が難しいようなIBD患者さんを診ることです。
これからのIBD診療は、非専門のクリニックから専門病院で紹介する「病診連携」だけでなく、専門クリニックへ紹介する「診診連携」がより重要になってきます。
今回の講演では、昨年に承認され、6月1日から長期処方が解禁となる新薬「カログラ」に対する私見を踏まえながら、IBDの医療連携についてお話しさせていただきました。
えっ? 講演の後?
もちろん、新しくできた東京のサウナ「渋谷SAUNAS」でしっかりととのってから帰りましたよと。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医