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IBD患者さんのワクチン接種②:帯状疱疹ワクチン

IBD患者さんのワクチン接種②:帯状疱疹ワクチン

帯状疱疹は、胸や背中、お腹や顔などの皮膚に水ぶくれを伴う赤い発疹が、帯状に現れる病気です。

 

神経にも炎症を起こすために、発疹に沿ってピリピリとした痛みを伴います。

皮疹が治った後も、後遺症として神経痛が長引くことがあるのが、やっかいなところです。

 

帯状疱疹の原因は、子供の頃に感染した「水ぼうそう」のウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス:VZV)。

このウイルスは、水ぼうそうが治った後、大人になってからもひそかに体内(神経節)に潜み続けています。

そして、過労やストレスが掛かったときや、年齢が上がるとともに免疫能が落ちてくると再び活性化し、帯状疱疹を引き起こすのです。

 

炎症性腸疾患 (IBD:潰瘍性大腸炎とクローン病)の患者さんは、治療の内容にかかわらず、この帯状疱疹に罹る危険性が高いことが知られています。

 

一般の方の帯状疱疹のリスクは1000人年(1000人を1年間観察したときに発生する確率)あたり1.2から4.9人であるのに対し、IBDでは1000人年あたり6.67から9.2人と報告されています。

つまり、IBDという病気があるだけで一般の方よりおよそ2~5倍高く、若いうちから発症するリスクを抱えています。

 

また、治療として用いる免疫を抑えるお薬の影響によって、そのリスクがさらに高まることもわかっています。

とくに、JAK阻害薬のゼルヤンツやリンヴォックを服用されている方は、帯状疱疹の発症に注意が必要です。

 

IBDの患者さんが帯状疱疹を発症した際に、重症化や後遺症がどの程度生じるのかについては、まだ十分な知見はありません。

ですが、免疫抑制状態にある患者さんは、皮疹が広範囲に広がる播種性帯状疱疹や、神経痛などの後遺症を生じる方が多いとの指摘もあります。

 

そこで、IBDの患者さんは、帯状疱疹の発症や合併症の予防を目的としたワクチンの接種について、考えておく必要があります。

 

帯状疱疹の不活化ワクチンであるシングリックスは、自然に免疫能が落ちてくる50歳以上の方だけでなく、病気そのものまたは治療のために帯状疱疹の発症リスクが高いと考えられる18歳以上の方にも接種することができるワクチンです。

 

また、従来からあった生ワクチンとは異なり、不活化タイプのワクチンであるシングリックスは、免疫を抑えるお薬を使用中の方に対して接種しても、ワクチンによってウイルスに感染するリスクはありません。

 

ただし、IBDの患者さんに対する帯状疱疹不活化ワクチンの有効性についての報告は、まだ限られています。

 

50歳以上のIBD患者さんを対象とした海外での後ろ向き研究においては、帯状疱疹ワクチンの予防効果が示されています。

 

一方で、アメリカの多施設研究においては、IBDの患者さんはワクチンを接種しても、健常人に比べて帯状疱疹リスクが約3倍と高かったとの報告もあります。

ただし、ワクチン未接種のIBD患者さんの場合、帯状疱疹のリスクは健常人に比べて約6倍でした。

この結果から、帯状疱疹ワクチンの接種に一定の発症予防効果(半減できる)は期待できるものの、健常人が接種した際の効果よりもやや劣る可能性があると解釈できます。

 

また、18歳~50歳の若いIBD患者さんを対象として予防効果を検証した報告は、まだ出てきていません。

 

このように、IBD患者さんにおいてどれぐらいメリット(帯状疱疹の発症・合併症の予防効果)があるのかは、まだ十分には分かっていないのが現状であり、海外のIBD関連ガイドラインにおいても、明確に推奨しているものはありません。

 

また、ワクチンを接種する際には、デメリットについても知っておく必要があります。

 

1つ目のデメリットは費用。

ワクチンは任意接種であり、自己負担による費用が発生することです。

当院で受けるシングリックスの接種費用は1回21,000円(税込)。

50歳以上の方は2ヵ月空けて、18歳以上は1~2か月の間隔で、合計2回の接種が必要ですので、総額は42,000円(税込)となります。

自治体によっては、費用の一部を助成するところも出てきていますが、原則は全額自費です。

 

2つ目のデメリットは、ワクチン接種によって生じうる副作用。

いずれも接種後数日で軽快する軽度なものがほとんどではあるものの、ワクチン接種部位の疼痛が70-80%、赤みや腫れが20-30%、全身においては筋肉痛や疲労が約40%、頭痛が約30%と報告されています。

 

以上、IBD患者さんの帯状疱疹およびワクチンの現状をまとめると、

  • IBDの患者さんは帯状疱疹に罹る危険性が一般の人より高い
  • 免疫を抑える治療を受けているとさらに発症する危険性が高まる
  • ワクチンでリスクを下げられる可能性があるものの、有効性のデータは不十分
  • ワクチンには費用の自己負担と副作用のリスクというデメリットがある

 

帯状疱疹ワクチン接種の是非については、これらをよく考えたうえで、患者さんの意思を尊重して判断することが大切です。

ワクチン接種について、迷っておられる方は、ぜひご相談ください。

 

「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ

 

日本消化器内視鏡学会専門医

日本消化器病学会専門医、評議員

日本消化管学会胃腸科専門医

日本炎症性腸疾患学会IBD専門医・指導医

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