IBDの新しい治療:エンタイビオ
今日もまたもやWeb講演でした。
企業のサイトからだけでなく、医療従事者向けの総合情報サイトであるm3.comからも配信される全国講演なのですが、コロナの最中ですので配信はなんとZOOMを使って自宅から。
まわりに業者もいない完全リモートの環境は初体験で、「ほんまに大丈夫かいな?」という一抹の不安もありましたが、何とか大丈夫でした。
しかし、どこにも出かけないのに自宅でスーツを着るのは、違和感がありますねぇ…。
今日は、エンタイビオ®という2018年に難治性潰瘍性大腸炎(UC)に対して承認されたお薬(生物学的製剤)を中心に、難治性UCの病態と治療の選択について解説しました。
お薬の前に、ちょっと難しいかもしれませんが「炎症とはなんぞや?」というお話を少し。
炎症とは、外傷や菌やウイルスなどの病原体の侵入に反応して、体におきる防御反応のことです。炎症を起こした場所は、赤く腫れあがり(発赤(ほっせき)・腫脹)、熱を持ち、痛みます。
これは、体に侵入した病原体と白血球が戦っている証です。
好中球とリンパ球は免疫を担当する白血球ですが、共に炎症細胞とも呼ばれ、「炎症」の起こる場所に集まります。好中球は主に炎症の初期に集まる細胞で、病原体などの異物を食べて排除する役割があります。一方でリンパ球は、慢性期の炎症に係わる細胞で、チームを作ってピンポイントに異物を攻撃するだけでなく、異物の情報を記憶し、再び侵入してきたときにすばやく対応して排除する働きを持っています。
では、好中球やリンパ球はどうやって炎症がおきた場所に集まってくるのでしょうか?
普段、白血球は血管の中を猛烈な勢いで流れています。
白血球が炎症部位に集まるためには、炎症がおこっている場所を知り、そこで急ブレーキをかけて止まり、血管の壁を通りぬけてたどり着く必要があるのです。その過程はとても複雑なのですが、大きく関わるのが「接着分子」という物質です。
リンパ球などの白血球の表面には「インテグリン」という接着分子が、腸にある血管の壁には「MAdCAM-1」という接着因子があります。この2つの接着因子同士が強固に引っ付くことによって、白血球が血管の壁を通り抜けて腸の組織に入り込み、炎症を引き起こすのです。
エンタイビオ®という薬は、「α4β7インテグリン」と言う主にリンパ球の表面にある接着因子に対する抗体製剤です。ここを薬でブロックすることで、腸の血管の壁とリンパ球が引っ付かなくなり、炎症細胞が腸の組織に集まらないようになります。
この薬のユニークな点であり、かつ利点となっているのは、腸における炎症や過剰な免疫反応は抑えるけれども、全身の免疫は抑制しないことにあります。つまり、薬によって全身の免疫力が落ちる心配がなく、安全性が高い薬だと言えます。
2019年にはUCだけでなく、同じ炎症性腸疾患(IBD)のクローン病の治療薬としても承認されました。
1回30分ほどの点滴で投与するお薬ですが、クリニックでは快適な空間で治療を受けていただけるように、しっかりと準備したいと思います。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ