歯周病菌が大腸がんを起こす?
3週間前のブログで、口の中の常在菌が胃がんの発生に関わっていることについて書きましたが、今回は大腸がんと歯周病菌のお話です。
口の中に住む菌が、実は胃がんだけでなく大腸がんの発生にもかかわっている可能性があることを示す最初の研究報告がなされたのは、今から約13年前の2011年のことです。
口腔内に常在し、歯周病を引き起こす菌として知られているフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)が、大腸がんの患者さんの便の中に多く存在することが分かったのです。
この菌は、健常者(大腸がんのない人)の便には、ほとんど存在しません。
それ以後、腸内細菌と大腸がんの関わりについての研究が、急速に進みました。
フソバクテリウム・ヌクレアタムについては、
・炎症を引き起こすことで大腸がんの発生に関わること
・がん遺伝子やがん抑制遺伝子へ影響を与え、がん細胞を増殖させること
・抗菌薬を投与すると腫瘍が増えるスピードが衰えること(マウスの実験)
・がんが進行すると菌の量が増えること
・菌の量が増えると予後が悪くなること
など、この菌が大腸がんを発生・進行させるさまざまなメカニズムが分かってきました。
さらに、大腸がんの患者さんと健常者の腸内細菌叢を比べてみると、フソバクテリウム・ヌクレアタムだけでなく、それ以外の複数の歯周病の原因菌も、大腸がんと深く関わっていることが明らかになってきました。(Nature Medicine 2019など)
アトポビウム・パルブルム(Atopobium parvulum)やアクチノマイセス・オドントリティカス(Actinomyces odontolyticus)という歯周病菌は、大腸ポリープ(腺腫)が多発する方や早期の大腸がん(粘膜内がん)の患者さんの便で増えており、大腸がんの発生初期の段階に強くかかわっている可能性が示唆されています。
また、フソバクテリウム・ヌクレアタム以外にペプトストレプトコッカス・ストマティス(Peptostreptococcus stomatis)という菌が、進行した大腸がんの患者さんで増えていることが報告されています。
これらの、従来は口の中だけに存在するはずの菌が、どのようにして大腸に到達し、定着するのかについては、まだはっきりした結論は出ていません。
口腔内には実に700種以上もの細菌が住み着いており、大腸に次いで多様な細菌叢を形成していると言われています。
歯周病の方では、口腔内の細菌叢のバランスが乱れ、病的な菌が増えた状態になっています。
この増殖した歯周病菌が、1日で1~1.5リットル分泌されている唾液とともに大腸まで運ばれ、腸内の細菌叢のバランスまで乱してしまっているのかもしれません。
実際、歯周病のある人は、歯周病がない人に比べて大腸がんのリスクが1.45倍高くなるとの報告もあるようです。
これは、歯周病によって発がん性を持つ菌が口の中で異常に増え、大腸にまで到達してがんを引き起こしていることを示唆しています。
日本人の歯周病は年齢が上がるとともに増加し、罹患率は35-44歳で40%、 45-54歳は50%、55歳以上では55-60%と言われています。
歯周病を治療することによって、便の中のフソバクテリウム・ヌクレアタムが減少することもすでに確認されていますので、口腔内のケアが将来の大腸がんのリスクを減らすことに繋がるのかもしれません。
わたしが医者になったころ、「芸能人は歯が命!」というテレビCMが流れていましたが、どうやら「歯が命」なのはなにも芸能人に限ったことではなさそうです。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医
日本炎症性腸疾患学会専門医・指導医