チャーハンで食中毒?「チャーハン症候群」とは?
えっ、チャーハンで命を落とす!?
最近、「チャーハン症候群(fried rice syndrome)」というワードが、海外のSNSで話題になっていたようです。
みなさんは、チャーハンやパスタをちょっと作りすぎた時に、そのまま室温で放置していませんか?
あるいは、時間差で後から食べるご主人やお子さんのごはんを、ラップをかけてそのまま食卓に置いておく・・・なんてことは、よくよくあるのではないでしょうか?
はい、うちもあります!(←あかんがな)
そして、後から食べるときに
「そもそも加熱してるから大丈夫!」
「においもぜんぜん平気!」
「レンチンで再加熱もするからね!」
と油断していると・・・実はどえらい目にあう可能性があります。
「チャーハン症候群」は正式な名称ではなくSNSによる造語で、チャーハンやパスタなどの料理を室温で長時間放置したときに起こる「セレウス菌(Bacillus cereus)」による食中毒のことを意味しています。
海外のSNSで話題になっていたのは、5日間室温に放置したトマトソースのスパゲッティをレンチンして食べた20歳の男性が、食べた30分後から大量に嘔吐し、10時間後には亡くなった・・・といった内容。
さすがに5日間の放置はやばいなと思いますが、悪条件がそろえば、数時間の放置でも食中毒は起こり得ます。
感染症の専門家曰く「2時間以上室温で置かれた米やパスタは食べるべきでない」とのこと。
チャーハンなんて思いっきり高温で炒めているから、菌なんて全部死んじゃってるんじゃないの?って思いませんか?
「セレウス菌」は土壌細菌のひとつで、土や水の中などいわば「どこにでもいる」菌です。
米や小麦といった穀類は、とくに土に触れる機会が多いため、実はセレウス菌がもともと付いている可能性が高い食材だったりします。
そして、セレウス菌は厳しい環境下にさらされた時に芽胞(がほう)という硬い殻を作って生き延びる力を持っています。
芽胞になると熱にめっぽう強くなり、100度で数時間加熱しても死にません。
ごはんを焚いても、さらに高温で炒めても、セレウス菌はしぶとく生き残っているのです。
もちろん、炊きたてのごはんであれば、出来上がったばかりのチャーハンであれば、多少の菌が付いていたとしても食べて何の問題も起こりません。
しかし、いったん加熱した後に、セレウス菌が好む28~35℃に下がると、「発芽」して菌が目を覚まし、急速に増殖が始まるとともに毒素を産生します。
やっかいなことに、菌から生み出された毒素はさらに熱に強く、126℃90分でも失活しません。
つまり、レンチンの再加熱ごときでは、びくともしないのです。
これが室温で放置したチャーハンやピラフ、焼きそばやスパゲッティといった料理で食中毒が起こるメカニズムです。
見た目もにおいも何にも問題ない、しかも加熱した料理で食中毒が起こるなんて・・・さらに、再加熱まで無力・・・って、怖いですよね。
(ちなみに炊飯器の「保温」機能は、菌が増殖しない60~75℃に設定されているので大丈夫)
セレウス菌による食中毒で起こる主な症状は、食べて30分~5時間以内に起こる嘔吐。
食べ物の中で産生された毒素によって発生するために、潜伏期間が短く食べてすぐに起こるのが特徴で、吐き気・嘔吐の他に、下痢や腹痛もみられます。
基本的に症状は軽く、1〜2日で自然に治まることがほとんど。
SNSで話題になったような重症化や死亡するようなケースは極めて稀ですので、それほどおびえることはありません。
また、料理の中の菌が、人の小腸でさらに増えてから毒素を出し、食べて6~15時間後に下痢をするというタイプもあります。
嘔吐物に含まれるセレウス菌の毒素を調べるための簡易なキットが開発されていないために、実は病院やクリニックでは急な嘔吐の原因がセレウス菌による食中毒かどうかを調べる術がありません。
そのため、日本では集団食中毒に限って報告が挙げられていますが、気づかれていないだけで一般の家庭ではもっともっと頻繁にこの食中毒は起こっているはず。
菌が増殖する温度から、とくに注意が必要なのは夏場ですが、暖房をガンガンに効かせている冬の室内でも菌は十分に育ちます。
「冬だから」と言って、決して油断は禁物。
作った料理をすぐに食べない時には、冷蔵庫で保存しましょうね。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医