AIと内視鏡
50歳を超えると体のあちこちにガタがきますが、なかでもとくに感じるのが目の衰え。
手元がボヤけてピントが合わない。
夕方になるとさらにショボショボ。
やたらと乾く。
文字が小さすぎて読めなぁぁぁい!
爪切りはほぼ勘。(←危ないわ)
流石に内視鏡の大きな画面はしっかりと見えています(いや、見えているつもりです)が、この先衰える一方の目を考えると見逃しが増えないかという一抹の不安も・・・
そこで、今週からお試しでクリニックにお借りしているのが某社の内視鏡AI。
(本当は目の心配ではなく、ただの新しいもん好きで、AI様のお手並み拝見といったところですが)
医療でAIを活用する領域は診断、治療、手術、介護の支援や薬品開発など多岐にわたり、中でもとくに進んでいるのが画像診断を支援する分野です。
すでに、胃カメラや大腸カメラの診断を補助する内視鏡AIはいくつか製品化されており、実際に医療機関で活用され始めています。
その目的は、「ポリープやがんを見つける」「腫瘍(できもの)と非腫瘍を見分ける」「炎症の程度を評価する」などさまざまです。
今回お借りしているAIは大腸のポリープやがんの発見に特化したもの。
大腸カメラの画面にポリープが映ると、そこを○で囲うと同時に音でもお知らせするというシステムです。
医師の目線だけでなく、膨大なデータを元にしたAI目線でリアルタイムに観察をサポートしてくれることで、新たな気づきが生まれ、病変の見逃しの軽減につながることが期待されています。
さて、まだたったの1日ですが、使ってみた感想は・・・
「AIよ、まだまだよのう・・・」といったところ。
わたしより先にAIがポリープを認識するといった場面は今のところなく、
「あれ?これも気づかないんか・・・」
「ほら、ここにあるよー」
と近づいたところで、やっとポーンと音が鳴り、ポリープを認識してくれるといった感じでした。
画面の端にチラッと映る、遠目に見て何となく怪しいな・・・といった、一番アシストしてほしいところはスルーされてしまいます。
逆にこちらがAIに教えているようでは、残念ながら目的を達成しているとは言えません。
でも、思っていたより誤認(ポリープじゃないのにポリープだと認識する)は少なかったな。
今のところは、思っていた以上にヒトの目の方が圧勝。
とは言え、わたしは衰える一方、AIはディープラーニングでこれからどんどん進化する一方です。
ベテランの医師が一生かかっても見られない膨大な画像データをもとに、数年先には、おそらくAIがヒトの目を凌駕するのではないでしょうか。
経験の少ない先生が見ても、AIのサポートによってベテランの先生と同じ、あるいは凌駕するレベルでポリープが発見できるようになるということは、患者さんにとっても大きなメリットになります。
(もちろん「目」だけではなくて、くまなく探す内視鏡の「操作」もそれ以上に大切なのですが)
ご存じのように近年の将棋界では、棋士たちがAIで研究するのは当たり前になっています。
ところが、2000年代まではAIはほとんど活用されていませんでした。
もちろんAIが進歩したことが大きいのですが、一番の転帰は2013年にトッププロ棋士がAIに負け、2017年には現役の名人がAIに屈したというインパクト。
やはり実績が伴ってこその、今日の普及だったのでしょう。
X線検査やCTの読影の分野では、すでに昨年度の診療報酬改定で「人工知能技術を用いた画像診断補助に対する加算」が新たに保険適用されました。
今後、内視鏡のスペシャリストを驚かせるような精度の内視鏡AIが登場すれば、保険適応と共に一気に普及し、気づいたら当たり前に使われている時代がやって来ると思います。
AIは道具です。
良くも悪くも「感情」はなく、「疲れ」を知らず、「焦る」こともありません。
うまく活用すれば、医療の質は上がり、医師の負担は軽減され、ミスは減り、医療格差が是正され、効率化やコストの削減にもつながり、良いことづくめのはずです。
「ポリープが小さすぎて見えなああああい!!」
「でもAIと一緒に見ると世界が変わる。」
「すごいぜAI!」(←どこぞのCM?)
・・・という風になれば、AI様の介護?を受けながら60歳代になっても安心して内視鏡を続けられそうです。
西宮市田中町5-2西宮駅前メディカルビル3F
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医