今年のインフルエンザワクチンは打つべき?
- 2021年10月25日
- お知らせ
嫁に「最近のブログ、ふざけすぎちゃう?」と言われる今日この頃、みなさまはいかがお過ごしでしょうか?
今週は真面目にインフルエンザワクチンの話を。
今年インフルワクチンを接種するべきかどうか、まだ迷っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
「去年はコロナと同時流行とか煽ってたけど、結局は全然流行らんかったやん。」
「感染対策もずっとやってるし、今年もインフルは流行らんやろ。」
「ワクチンは打たんでもええんとちゃうの?」
・・・なるほど、ごもっともです。
でも、本当にそれで良いのでしょうか?
順序立てて考えてみましょう。
1)去年のインフルエンザはなぜ流行らなかった?
確かにコロナとの同時流行が危惧された去年、インフルエンザは驚くほど鳴りを潜めました。
昨シーズンの日本のインフルエンザ推定患者数はたったの1万4,000人。
これまでの患者数が年間1,000万~2,000万人でしたので、ケタ違いどころか、3ケタ違いの極端に少ない数です。
もちろん日本だけでなく世界中で少なかったのですが、インフルエンザの流行が定着した近年で、こんなことが起こったのは初めてです。
良い方にですが、完全に肩透かしを食らいました。
では、なぜこんなにも少なかったのでしょうか?
一番の理由は、コロナ対策として普及した手洗い、マスク、ソーシャルディスタンス、国家間の人流の制限などの感染対策が、インフルエンザに非常に効果的であったということだと思います。
1つのウイルスが流行った時に他のウイルスが抑制される「ウイルス干渉」と言う現象が起こったとの見方もありますが、去年のコロナの感染者は今を思えば大した数ではなく、インフルの流行を抑え込むほどの大きな要因ではなかったと考える方が自然です。
インフルに限らず、異常な感染力を持つコロナ以外のウイルスは、日々これだけの感染対策をすれば、ゼロにはならなくてもまず流行らないんです。
みなさんも、風邪をほとんど引かなくなったでしょ?
そもそもウイルスはヒトの体の中で増えて、ヒトからヒトに感染することで広がります。
インフルエンザの場合は、空気が乾燥し、寒さで体の抵抗力が落ちる冬に流行のピークを迎えます。
日本の夏場に、季節が真逆のオーストラリアなどの南半球で先に流行が起こり(南半球は冬)、それが国をまたいだ人の移動よって秋口から日本など北半球の地域に広がり始めます。
こうしてインフルエンザウイルスは、繁殖しやすい場所を探してヒトと一緒に年中グルグルと地球を飛び回って生きているのです。
しかし、2020年のオーストラリアの都市部では、コロナの感染拡大に伴い7月から10月にかけて長期間のロックダウンが行われました。
人流がぷっつりと絶たれるというかつてない状況によって、この時期に流行るはずだったインフルエンザは激減し、その後日本に入ってくることもほとんどなかったのだと考えられます。
2)今年インフルエンザが流行る可能性は?
では、今年はどうなるのでしょうか?
北半球の冬場のインフル流行を予測する上で、やはり夏場のオーストラリアのデータは参考になります。
豪州保健省の報告書によると、インフルエンザの発生は昨年と同様に今年も「歴史的に低いレベル」に留まっています。
オーストラリアでは、2021年も6月から新型コロナの感染が再拡大し、シドニーなどの大都市では再び4ヶ月間にもおよぶロックダウンが行われていました。
実は2021年5月にはインフルエンザの感染者が出始めていたのですが、インフル流行シーズンと重なったこの人流の制限によって完全に抑えられ、消えていきました。
さらに、インフルエンザワクチンの接種が積極的に行われていたことも見逃せません。
豪州保健省のデータから計算すると、今シーズンに国民の34%がインフルエンザワクチンの接種を受けていました。
この2つが、オーストラリアで2年続けてインフルの感染が抑えられた大きな要因ではないかと推測します。
「じゃあ、日本は今年もインフルは流行らないんじゃない?」
確かに、厚生労働省が発表する全国のインフルエンザの発生状況を見ると、10月11日から10月17日までの1週間で、全国約5千カ所の定点医療機関から報告された感染者はたったの10人。
9月以降のこれまでの総数も、現時点ではわずか29人です。
コロナ禍以前は、この時期でも数百~数千人単位でインフルエンザが発生するのが普通でしたので、昨年と同様にとんでもなく低い数で経過していると言えます。
先行する南半球の感染者が極端に少なく、かつ渡航も制限されている訳ですから、これはある意味当然の結果です。
今年もこのまま流行しなくて済む可能性が高いと考えるのが今のところ妥当・・・なのですが・・・
・・・もしかすると、そうは甘くはないのかもしれません。
アジアのバングラディシュやインドでは、この夏も小規模ですがインフルエンザの流行が起きています。
これらの亜熱帯地域の国々では、年間を通じてインフルの小規模な流行が起こることが多く、ワクチンの接種も普及していません。
これはコロナにも言えることですが、大規模な流行が治まったとしても、ウイルスが地球上から完全に消えてなくなることは絶対にありません。
ウイルスは、密かに、虎視眈々と、子孫を残せる次の場所を狙っているはずです。
今後、海外からの渡航制限が緩和されれば、こういった小流行を起こした地域からインフルエンザウイルスが国内に持ち込まれて急に大流行する・・・といった可能性は決してゼロではありません。
そして実は、流行らなかった次の年というのは、危ないのです。
ヒトの体は、毎年ウイルスにさらされ続けることで、たとえ感染して症状が出なかったとしても自然に免疫が付いてきます。
逆に、ウイルスにさらされない期間が長くなるほど免疫力は弱まり、久しぶりにウイルスに接触した際に発症しやすくなったり重症化したりする可能性があります。
実際、日本では今年の6〜7月にお子さんの間でRSウイルスが大流行しました。
従来流行する9月よりも時期が早く、しかも例年を上回る規模です。
これは、お母さんらによる感染対策によって前年のRSウイルスの流行が極端に抑えられたために、ウイルスにさらされなかった免疫力の無い乳児が増え、そのリバウンドが起きたのではないかと考えられています。
もしかすると、インフルエンザについても、同じことが起きるかも知れません。
ただし、このRSウイルスの流行は不思議なことにピークから1か月でほぼ完全に収束してしまいました。
その理由は全く分かっていません。
新型コロナの感染が、そもそも今なぜ日本で急激に減っているのか?
・・・その本当の理由は誰も分かっていませんよね。
ウイルスというのは本当に分からないことだらけで、ヒトの予想を簡単に裏切ります。
だからこそ、念のために「インフルエンザワクチンは接種しておくべき」というのが、わたしの考えです。
3)インフルエンザワクチンは足りている?
「今年はインフルエンザワクチンの供給量が少ない。」
「医療機関に電話が殺到。」
「ワクチン予約の打ち切りや、不足で打てないケースも出ている。」
といった報道を目にします。
厚生労働省の発表によると、ワクチンの供給量は製造の多かった昨年に比すると2割程度減少するものの、最終的にはほぼ例年通りとのことです。
供給される時期がいつもより遅めですが、12月中旬頃まで継続的に供給される予定ですので、ワクチンの不足については過度に心配しなくても良いと思います。
そして、インフルエンザ流行のスタートが前述したようにコロナ禍前より明らかに遅く、かつ極めて低い水準ですので、それほどあせらなくても大丈夫です。
11月末から12月初めまでに接種を終わらせれば良いと思います。
今のところ、わたしたちのクリニックにもインフルエンザワクチンは順次供給される予定です。
最後に、
わたし自身は、今年インフルエンザが流行する可能性は「かなり低い」と思っています。
ですが、同時に「絶対に流行らない」との決め打ちは、やはり危険だと考えています。
予想を裏切るインフルエンザの流行が始まってしまってからあわてないように、念のためにワクチンは打っておくことをお勧めします。
新型コロナワクチンと比べるとインフルワクチンの予防効果は高くないとはいえ、言うなれば安心のための保険。
「備えあれば患いなし」です。
予想通りにインフルが流行らず、例えワクチンが「空振り」に終わったとしても、それはそれで良し・・・
と言うか、そうなるように心から願っています。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医