2日目カレーで食中毒?
余ったカレーを翌日に食べると・・・あれ?なんか昨日よりうまい!
2日目も楽しむために、あえて一度に大量に作るご家庭も多いのではないでしょうか。
実は、ひと晩寝かせた「2日目のカレー」をおいしく感じるのは気のせいではなく、科学的にも証明されている事実。
その理由は、一晩寝かせている間に肉や野菜から糖質やアミノ酸といったうま味成分が、カレーの中に溶け出すから。
さらに、ジャガイモのデンプンや繊維質が溶け出すことで、甘みととろみが増し、コクのあるマイルドなカレーになるのです。
(スパイシーさは消えますけどね。)
ただし、「2日目のカレー」はそのおいしさの代償?として、ひそかに食中毒を起こすリスクが増えていることには注意が必要です。
そのリスクの元が「ウェルシュ菌」。
初めて聞く人も多いとかと思いますが、ウェルシュ菌は土や川、海など自然界のどこにでもいる菌で、ヒトの腸の中にも住み着いています。
カレーの定番の具である牛・豚・鶏や、土の中で育つジャガイモやニンジンなどの根菜にも付着しています。
そして、昨年末のブログで書いた「チャーハン症候群」のセレウス菌と同じように、ウェルシュ菌は厳しい環境下にさらされた時に、芽胞(がほう)という硬い殻を作って生き延びる力を持っています。
鍋でアツアツに煮込まれる過程で、ウェルシュ菌は芽胞になって生き延びようとします。
そして、いったん芽胞になると、熱にめっぽう強くなり、数時間加熱しても死ななくなります。
ただ、生き延びただけの少量の芽胞であれば人に害を起こすことはなく、アツアツの出来立てカレーを食べても、何の問題も起こりません。
ですが、カレーを室温に放置すると、ウェルシュ菌が好む45度前後の温度に下がる過程で目を覚まし、急速に増殖を始めます。
さらに、空気を嫌う性質の菌であるため、カレーやシチューといった液状の料理の鍋底という酸素が少ない場所こそが、まさにうってつけの好環境なのです。
これが「一晩寝かせたカレー」で食中毒が起こる理由。
食べる前にいくら再加熱したところで、増殖したウェルシュ菌は死にません。
「ウェルシュ菌たっぷりカレー」を知らずに食べてしまうと、人の小腸でさらに菌が増殖し、エンテロトキシン(毒素)が産生されます。
そして、その毒素によって食べてから平均で10時間後に腹痛、下痢などの腹部症状が起こります。
ただし、症状は軽いことが多く、下痢は1日1〜3回程度、嘔吐や発熱などは極めてまれで、1〜2日で回復することがほとんどです。
あたなが最近起こした下痢の原因は、もしかするとウェルシュ菌の食中毒だったかもしれませんよ・・・。
実際には、学校給食や仕出し弁当など一度に大量に調理した際に発生する事例報告がほとんどで、家庭での発生は少ないとされているものの、油断は禁物。
カレーに限らず、シチューやスープなどの「煮込み料理」は、調理後早めに食べきるか、残った場合には室温で放置せずに、速やかに粗熱を取って冷蔵または冷凍保存しましょう。
・・・と、放置しっぱなしの自分に言い聞かす今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?(←なにそれ?)
チャーハン症候群もそうですが、「加熱した食べものは大丈夫!」と油断していると痛い目に合うかも知れませんよ。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医