ノロウイルスにご用心:その①
ある意味想定通りとも言えますが、冬が近づくにつれて新型コロナウイルスの感染拡大が止まらなくなっています。
そもそも、冬の気温と湿度はウイルスにとって最適な環境。さらに、冬の寒さは人の免疫力を低下させるため、インフルエンザなどのウイルスが猛威を振るうのに格好の時期と言えます。
さて、われわれが診る胃腸の病気でも冬場に問題になるのはやはりウイルス。
冬に急な嘔吐・下痢を来す原因は、ほとんどがノロウイルスによる感染性腸炎です。
では、ノロウイルスはどうやって人に感染するのでしょうか?
始まりは「牡蠣」です。
とは言え、夏場におこる細菌性食中毒とは違い、冬場に牡蠣の中でウイルスが増えやすいというわけではありません。ノロウイルスは人間の小腸でしか増えない特殊なウイルスなのです。
ノロウイルスに汚染された牡蠣を生で食べると、ウイルスが小腸の上皮に取り付いて増え、12〜48時間の潜伏期間を経て吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの症状を引き起こします。
その際、吐いた物や下痢便の中には大量のウイルスが排泄されています。これが下水の浄化処理をかいくぐり、河川に流され、辿り着いた海で牡蠣などの二枚貝に取り込まれて内臓で濃縮されます。その汚染された牡蠣を再び人が食べて感染し、ウイルスを増やすというループが延々と繰り返されているのです。
牡蠣に限らず他の二枚貝にもウイルスは居るのですが、内臓ごと生で食べる二枚貝は牡蠣だけ。しかも、牡蠣の旬が秋口から春先までなので、毎年決まってこの時期に流行するのです。
余談ですが、スーパーなどで売っている牡蠣には「生食用」と「加熱用」の2種類あるのですが、その違いをご存じでしょうか?
「生食用の方が鮮度が良くておいしいはず!」というイメージをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、それは違います。2つの違いは採れる場所(海域)です。
河口や沿岸付近で採れる牡蠣は、山や河川から流れてきたミネラル・栄養分やプランクトンをたっぷり含んだ水で育っており、身が成長し味も濃くおいしくなります。しかし、その分ウイルスにもさらされている可能性が高いので、加熱用として販売されます。
一方、水質の良い沖合いのいかだに吊るされて育った牡蠣はウイルスは少ないのですが、栄養分も乏しくなるので、安全性が高い代わりにどうしても旨味には欠けてしまいます。実はこれが生食用なのです。
ですから、生食用をカキフライにしてもあまりおいしくありません。
さて、今年のノロウイルスの情勢はどうでしょうか?
東京都感染症情報センターによる感染性胃腸炎の流行状況をみますと、例年と違って2020年は今のところ第40週つまり10月頃から始まる感染性腸炎の増加がみられないようです。
これはいったいどういう事なのでしょうか?
コロナで外食が減ったから? それとも、牡蠣を食べなくなった?
おそらく、そんなことはないでしょう。
ノロウイルスの感染の始まりは牡蠣ですが、実は感染は食品からだけではありません。ノロウイルスは感染力が非常に強く、たった10〜100個というごく少量のウイルスで感染が成立します。
トイレでの排便時、汚物の処理時に汚染された手を介して、ドアノブ、手すり、水道の蛇口、洗い場などがノロウイルスに汚染され、さらにそこから他の人へ「ヒト・ヒト感染」が広がります。
ウイルスに感染した食品取扱者を介して汚染されたサラダなどの非加熱食品による食中毒も起こるため、約7割で原因食品が特定できないと言われています。
今年ノロウイルス感染症の発生が今のところ極端に少ないのは、新型コロナウイルス対策でみなさんがこまめに手洗いをしているからヒト・ヒト感染が起きていないのではないかと推察しています。
今年は、如何せんコロナの影に隠れてしまいがちなノロウイルスですが、例年のピークは12月から2月。その動向にも注目していきたいと思います。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ