食道裂孔ヘルニア
胸(胸腔)とお腹(腹腔)は横隔膜という筋肉の膜で分かれています。横隔膜には食道裂孔という食道が通る孔(あな)が開いており、胸側にある食道とお腹側にある胃がそこでつながっています。
この食道裂孔と、食道と胃の境目(食道胃接合部または噴門部)の高さが一致しているのが正常の状態です。
ところが、お歳を取ってくると下部食道の周りの靭帯や筋肉が緩み、本来ならお腹側にあるべき胃の一部が、横隔膜を超えて胸側に飛び出してしまうことがあります。
この状態を「食道裂孔ヘルニア」と言います。
ヘルニアとは、本来あるべき位置からはみ出してしまった状態のことです。
太ももの付け根のあたりの下腹部から腸が飛び出た状態のことを「鼠径(そけい)ヘルニア」、背骨の間でクッションの役目をしている椎間板の一部が飛び出た状態のことを「椎間板ヘルニア」と言いますね。
胃の一部が横隔膜を超えて胸側に飛び出す食道裂孔ヘルニアには3つのタイプがありますが、ほとんどは「滑脱型」というタイプです。
食道裂孔ヘルニアは、加齢によるものだけではなく、肥満(内臓脂肪)や妊娠などでお腹の圧力が上がり、胃が上に持ち上げられることでも起こります。猫背の方や、締め付が強い服装、コルセットの着用も同じです。
その一方で、原因が良く分からない場合もあり、全く肥っていない若い方に見かけることもあります。
スマホやデスクワークなど、お腹に圧がかかる前かがみの姿勢で過ごす時間が増えていることが原因なのかも知れません。
さて、食道胃接合部には下部食道括約筋というリング状の筋肉があり、きゅっと締まることで食べ物や胃液の逆流を防いでいます。ところがヘルニアでこの筋肉と食道裂孔の高さがずれてしまうと、しっかりと締まり辛くなります。
実際に食道裂孔ヘルニアの方は、胃と食道の境目を内視鏡検査(胃カメラ)で下から見上げた時に、しっかりと締まらずに大きく開いてしまっていることが分かります。
また、食道裂孔ヘルニアの方は、十分に空気を入れて胃を広げて観察しようとした時に、締りが悪いためにげっぷをがまんできない方が多く見られます。
では、食道裂孔ヘルニアがあるといったい何が悪いんでしょうか?
内視鏡検査で食道裂孔ヘルニアが見つかっても無症状という方は多くおられます。
しかし、胃酸の逆流が生じやすくなっていますので、当然ながら胃食道逆流症(逆流性食道炎)を合併されていることも珍しくありません。
症状がなければ特に問題はありませんが、胃食道逆流症を併発している場合は、胸やけなどの症状を抑えるために胃酸を抑える薬などの治療が必要になります。
「緩んだ食道の筋肉を鍛えて元に戻す方法って無いんですか?」と良く聞かれますが、残念ながら内臓の筋肉を直接自ら鍛えることはできません。
食道裂孔ヘルニアが良くなるようにみなさんが日頃できることは、
・適度な運動や食べ過ぎないようにして肥満を解消すること
・姿勢を正して前かがみにならないこと
・脂っこいものを控えること
・炭酸飲料やアルコールを控えること
・食べてすぐに横にならないこと
などです。
内服治療や生活習慣を正しても胸やけの症状が改善しない場合や、脱出部分が大きく心臓や肺などの胸部の臓器を圧迫するような症状がある場合などには、ごく稀ですが外科手術が必要になることもあります。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ