食中毒にご用心:カンピロバクター腸炎
連日の大雨で気分がさえませんね・・・。
豪雨により被害に遭われた皆さまには、心よりお見舞い申し上げます。
さて、この梅雨から夏にかけての時期は、食中毒の発生に注意が必要な時期でもあります。
食中毒自体は季節を問わず年中発生しているのですが、とくに夏場は「細菌性」食中毒、冬場は「ウィルス性」食中毒が多くなります。
なぜ冬にウィルス性の食中毒が多いのかについてはまたの機会に書くとして、夏に細菌性の食中毒が多い理由は、食中毒の原因になる細菌の多くが「高温多湿」の環境で増殖しやすいからです。
日本は世界でも珍しい生食文化の国。
おいしい「生もの」と危険な「食中毒」は、実は常に隣りあわせなのです。
夏場の食中毒の代表格、それが「カンピロバクター腸炎」です。
先日、焼き鳥の記事を書きましたが、「鶏刺し」、「鶏のたたき」といった生または半生の鶏肉を提供する飲食店が増えてますよね。
わたしが大学生のころ(30年ぐらい前)は、焼き鳥屋さんでも生で出す店はほとんど見かけなかったと思うのですが、最近では居酒屋さんでもどこにでもある感じです。
カンピロバクターは、野鳥およびニワトリなどの家禽類、ヒツジ、ウシの腸の中に常に住んでいる菌です。
いくら新鮮なお肉だといっても、包丁などの調理器具を介して腸にいる菌がお肉に付いてしまうことは十分あり得ます。
冷蔵庫から出した鶏肉を直ぐに切って、提供されたものを直ぐに食べれば、多少の菌が付いていたとしても、胃酸で菌が死ぬので感染は起こりません。
ところが、先ほど書いたように菌は「高温多湿」で増殖しますから、「鶏刺し」が提供されているのにビール片手におしゃべりに夢中になりながらチビチビ時間をかけて食べたりしていると、あっと言う間に室温にさらされた「鶏刺し」の中でカンピロバクターが増殖してしまいます。
「新鮮だから大丈夫」という訳ではなく、口に入れるまでにどんな状況に置かれていたかが重要なのです。
カンピロバクターによる食中毒が発症するのは、とくに20歳代から30歳代の若者です。鶏肉を生で食べることがごく普通になってから生まれた世代の人とも言えます。
食中毒統計によると毎年2000-3000人程度の発症が報告されていますが、実はこれは氷山の一角。厚生労働省によるとカンピロバクター腸炎の発症は、なんと全国で毎年約640万人!!と推定されているのです。
「潜伏期間」が2~10日と比較的長いことから食中毒とは気付きにくいのも特徴です。
「潜伏期間」とは原因となる菌が体に入ってから、体の中で菌が増えて症状が出るまでの期間のことを言います。
「急に吐いたり下痢したり」といった症状で病院を受診した患者さんに、「何か思い当たる食べ物はありますか」と聞くと、「今朝は・・・を食べて、お昼は・・・を食べましたが、生ものは食べてません」と言うように直前の食べ物のお話をされるのですが、実は1週間前に食べたものが食中毒の原因だったということは珍しくありません。
発症すると急に下痢と腹痛が起こり、半数の方は血便も出ます。若い人に多いので、潰瘍性大腸炎と間違えられて紹介される患者さんもいらっしゃいます。
お腹の症状が出る前に発熱、頭痛、悪寒、倦怠感、嘔気などもみられるため、風邪と間違われることもしばしばあります。
統計に報告される数と実数が大きくかけ離れているのはこういった理由によります。
ちなみに、カンピロバクターは冷凍しても長期間死にません。逆に75℃以上1分間の加熱では、ほとんど死滅します。
ですので、焼き鳥は大丈夫。
生や半生の鶏(牛のたたき、牛刺、ユッケもですが)は、食中毒に絶対なりたくないのなら避けること。
でも、困ったことに「生」って美味しいんですよねぇ・・・。
どうしても食べたいなら、提供されたら冷たいうちに「素早く食べる」が専門家からの推奨です。
絶対はないので、あくまで自己責任ですけど・・・。
西宮市田中町5-2西宮駅前メディカルビル3F
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ