食べてケアするIBD~腸がよろこぶ食事とは~③
さて、では治療が進歩した現在のIBDの患者さん達は、どのような食事を摂るべきなのでしょうか?
巷には、ネットの情報を含め、さまざまなIBDと食に関する情報があふれています。
「食物繊維は避けた方がよい。」
「いや、むしろ食物繊維は食べるべきだ!」
「乳製品はIBDに良くない。」
「いや、むしろ乳製品は食べるべきだ!」
・・・このような真逆の意見を目や耳にすることも、きっとあるでしょう。
実は、病院や医師によっても、食に対する考え方はかなり違っていたりします。
ではなぜ、こんな事態になってしまっているのかと言うと、IBDと食に関しての明快な「正解」や「答え」が存在しないからです。
「特定の食品がIBDの再燃に関与するのか?」
「特定の食品が腸の炎症を改善させるのか?」
こういった問いに答えられるようなエビデンス(科学的根拠)レベルの高い研究結果は、残念ながらこれまでにほとんどありません。
その理由は、ある特定の食事をしていた患者さんと、そうでない患者さんを比較する質の高い研究を行うこと自体が、極めて難しいためです。
それは薬の有効性を検証する研究よりも、はるかにハードルが高いものです。
例えば、「赤身肉や加工肉」はクローン病の患者さんにとって一般的によくないと言われています。
では実際に、「赤身肉や加工肉を食べることでクローン病が再燃するのか?」という問いに対して、質の高い研究を行おうとすると、
① 寛解状態のクローン病患者さんを集めて、「赤身肉・加工肉を少なくとも週に2回以上食べる高肉食群」と「赤身肉や加工肉を月に1回以下しか食べない低肉食群」の2つの群にランダムに振り分ける。
② この食事の条件を1年間守ってもらって、両群で再燃率を比較する。
といったデザインの研究になります。
実は、数年前にアメリカで実際にこのデザインの研究(Albenberg L, et al. Gastroenterology 2019)が行われたのですが、もしみなさんが参加を求められたとしたら、いかがでしょうか?
研究の対象となるのは治療がうまくいっている寛解期のクローン病の方ですから、もともとあまり気にせずに赤身肉や加工肉を食べていたという方も少なからずおられるでしょう。
それがいきなり、「月に1回以下しか肉を食べちゃダメな群に当たりました」と言われて、それをちゃんと守れるでしょうか?
実際にこの研究では、1年間の研究を最後まで継続できたのは患者さん全体の78%。
そして、食事の内容を守れた方は、高肉食群が98.5%であったのに対し、低肉食群は57.3%でした。
最終的に、低肉食群の方が赤身肉・加工肉の摂取が少なかったとはいえ、規定通りに厳密に制限するのはやはり、簡単ではありませんね。
そして、肝心の1年後のクローン病の再燃率の結果はというと・・・高肉食群が62%、低肉食群が42%であり、両群に有意な差は認められませんでした。
では、この結果から、「赤身肉や加工肉をがまんしても、クローン病の再燃には関係ない!ガンガン食べられるぞ!ばんざーい!」となるかというと・・・やはりそう単純にはいきません。
例えば、低肉食群に当たった方は、肉の代わりに甘いケーキやフライドポテトなんかを大量に食べていたために、高肉食群の方と同じように再燃してしまっていたのかも知れません。
質の高いデザインの研究であっても、食に関しては他の要因が大きき関わるため、なかなか明快な「答え」が導き出せないのです。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医
日本炎症性腸疾患学会IBD専門医・指導医