野菜で潰瘍性大腸炎の発症予防?
先週のブログは、コーヒーの摂取が日本人において潰瘍性大腸炎の発症リスクを下げているというお話でした。
実は、潰瘍性大腸炎を発症する要因を過去に遡って調べたこの症例対照研究では、コーヒー以外にもさまざまな食べ物や栄養素について調べられています。
今回ご紹介するのは、野菜・果物と、それらに含まれる栄養素のビタミンC、ビタミンE、レチノール、カロテン、クリプトキサンチンと潰瘍性大腸炎の発症リスクとの関連を調べた結果です。
Miyake Y, et al. Dietary intake of vegetables, fruit, and antioxidants and risk of ulcerative colitis: A case-control study in Japan. Nutrition 2021
酸化ストレスは潰瘍性大腸炎の病因の1つと考えられています。
では、抗酸化作用のある栄養素やそれらを多く含む野菜・果物の摂取は、実際に潰瘍性大腸炎の発症を予防しているのでしょうか?
先週ご紹介した研究と同じく、診断されてから1年以内の日本人の潰瘍性大腸炎の患者さん384例と、対照となる665例で症例対照研究が行われています。
その結果は・・・
・「その他の野菜」、「ビタミンC」、「レチノール」の摂取量が多いほど、潰瘍性大腸炎の発症リスクが低下していた。
・緑黄色野菜、果物、ビタミンE、α-カロテン、β-カロテン、クリプトキサンチンの摂取量と潰瘍性大腸炎の発症リスクに関連は認められなかった。
まずは、「その他の野菜」。
・・・「その他の野菜」って何??と思われた方も多いでしょう。
緑黄色野菜と言えば、ブロッコリー、ピーマン、ホウレンソウ、にんじん、カボチャ、オクラ、トマトなど、見た目に色が鮮やかな野菜のことです。
ただ実は、「緑黄色野菜」か「その他の野菜」を分けているのは見た目ではなく、カロテン(体内でビタミンAに変わるプロビタミンA)をどれぐらい含んでいるかで決まっており、「原則として可食部100g当たりカロテン含量が600µg以上の野菜」が緑黄色野菜の基準です。
一方、「その他の野菜」とは、大根、白菜、キャベツ、なす、玉ねぎ、きゅうり、とうもろこし、れんこん、カリフラワー、ゴボウ、にんにく、レタスといったカロテンの含有量が少ない野菜のことで、俗名で「淡色野菜」とも呼ばれています。
えっ、レタスって緑黄色野菜とちゃうん?・・・と、わたしも思っていましたが、
レタス、ロメインレタスは「その他の野菜」
サラダ菜、リーフレタス、サニーレタスは「緑黄色野菜」
なんだそう。
ちなみに、
ネギの青い部分は「緑黄色野菜」で白い部分は「その他の野菜」、
カブの葉は「緑黄色野菜」で実(根)は「その他の野菜」
なんだとか。
ややこしいわ。
少し話が脱線しましたが、今回日本人で潰瘍性大腸炎の発症を予防していると分かったのは、「その他の野菜」の方。
色が薄いと侮るなかれ、βカロテンの量が少ないだけで食物繊維が豊富、カリウムやマグネシウム、ビタミンなどさまざまな栄養素が含まれています。
腸内細菌のエサとして大切な食物繊維などの成分が、潰瘍性大腸炎になりにくい体を作っていくのかもしれません。
しかし、「その他の野菜」ってネーミング、かわいそうやしなんとかならんのか。
次に「ビタミンC」。
ビタミンCが多く含まれる食べ物と言えば、緑黄色野菜と果物です。
すると、「ビタミンC」の摂取は潰瘍性大腸炎の発症を予防する効果があるのに、「緑黄色野菜」と「果物」には関連がなかったとする今回の結果は、解釈が難しいところ。
実は、海外の報告をまとめた2015年のメタ解析では、野菜や果物の摂取量が多いほど、UCのリスクが低下することが示されています。
今回予防効果を証明できなかったのは、研究対象となった患者さんの規模が小さかったためなのかもしれません。
最後に「レチノール」。
レチノールは活性酸素の働きを抑える抗酸化に働くビタミンAの一種です。
ビタミンAのうち、主に植物性の食品に含まれるのがプロビタミンA(カロテン、クリプトキサンチン)なのに対して、主に動物性の食品に含まれるのが「レチノール」。
鶏や豚のレバー、あん肝、のり、ウナギなどに多く含まれています。
今回の研究は、レチノールの摂取が潰瘍性大腸炎の発生リスクを下げることを示した初めての論文とのことです。
しかし、植物性のプロビタミンA(カロテン、クリプトキサンチン)摂取とは関連が見られず、ビタミンAの中でなぜレチノールだけが関連するのかについては、今後の検証が待たれます。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医