過敏性腸症候群と便中カルプロテクチン
先週に引き続き、便中カルプロテクチン(FCP)のお話し。
過敏性腸症候群(IBS)は、大腸内視鏡検査で腸に異常がないのに、お腹の痛みや不快感を伴う下痢や便秘などお通じの異常が数ヶ月間続く病気のことをいいます。
緊張した時やストレスを感じた時に、
急にお腹がゴロゴロして下痢になってしまう、
通勤電車でお腹が痛くなり便意に襲われて駅のトイレに駆け込む、
といった症状が典型的です。
中学生や高校生などの学生さんにも多い病気で、急な腹痛や便意を催すために通学や授業中に困ることがしばしばあります。
IBSは、「腸がリズムよく動かなくなる」「腸の知覚過敏によって痛みを感じやすくなる」といった腸の「機能」の異常が原因の病気ですので、見た目には腸に何の異常もみられません。
ここで問題になるのが、「大腸内視鏡検査で腸に異常がない」ことを確認しないと、はっきりと診断できないこと。
典型的な症状だけでもIBSの診断はほぼ付くのですが、腸に慢性的な炎症が起きる炎症性腸疾患(IBD)においてもIBSと同じように腹痛や下痢を起こします。
そしてやっかいなことに、IBDの好発年齢も同じく若い方。
内視鏡検査を行わずに症状だけでIBSだと決めつけていたら、実はIBDだった・・・ということも起こり得ます。
かといって、下痢や腹痛のある若い方みなさんに対して、「腸に何も問題なかった」という結果になる可能性が高いのにも関わらず、身体的にも時間的にも負担が少なくない大腸内視鏡検査を行うのは、現実的ではありません。
そこで、便中カルプロテクチンの出番です。
2024年1月から便中カルプロテクチン検査の適応が、「潰瘍性大腸炎の病態把握の補助」から「炎症性腸疾患の診断補助」および「クローン病の病態把握の補助」にまで広がりました。
つまり、IBSかIBDのどちらか分からない・・・といった場合に、鑑別診断の補助として使えるようになったのです。
そこで当院では、慢性の下痢や腹痛がある方に対して、まずは2つの便検査:便中カルプロテクチンと免疫学的便潜血検査を行っています。
便の検査の結果で、腸に炎症も出血もないことが分かれば、IBSの可能性が高くなります。
逆に便の検査の数値が高ければ、大腸内視鏡検査で精密検査を行う・・・というステップを踏みながら診断を進めていくことができます。
下痢や腹痛が続く・・・
過敏性腸症候群なのかな?・・・
でも、いきなり大腸カメラを受けるのはイヤだな・・・
という方は、まずはハードルの低い便検査から考えてみてはいかがでしょうか。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医
日本炎症性腸疾患学会IBD専門医・指導医