自然体でいること
「こうしようと一筋に思う心こそ、人が誰しも抱える病である。
この病を必ず治そうというこだわりもまた病である。
自然体でいること、それが剣の道にかなう、本当にこの病を治すということなのである。」
これは、江戸時代の剣の達人として知られ、徳川将軍家の兵法指南役であった柳生 宗矩(やぎゅう むねのり)が書き残した兵法家伝書の一節です。
今の時代に読んでも、「刺さる」言葉ですね。
人は誰しも「こうしたい」「こうなりたい」という願望を持っています。
願望を持つことは決して悪いことではありませんが、それに固執して一生懸命になりすぎることは「病」だと説いています。
そして、「なんとかして治そう」「今のままではダメだ」というこだわり、これもまた「病」だと説いています。
一途に何かに打ち込んで成功することが美徳とされるような社会ですが、一生懸命になるほどに視野は狭くなり、焦る心を生み、結局は上手く行かない・・・ということも確かにありますよね。
わたしたちのクリニックには連日多くの方が胃腸の不調を訴えて受診されますが、お話を伺うとほとんどの方がさまざまな理由でストレスや不安、悩みを抱えておられます。
コロナ禍という前代未聞の今の状況も、間違いなく拍車をかける一因となっています。
メンタルの不調は、胸やけ、胃痛、胃もたれ、下痢、腹痛などの症状を生じる機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患といったさまざまな胃腸の病気を発症するきっかけとなってしまいます。
そして、このような患者さんから受ける印象は、真面目で一途そうな方が多いということです。仕事、育児、介護、学業・・・もしかするとなんでも「完璧にこなさなきゃ」と日々頑張りすぎておられるのかも知れません。
しかし、そう簡単に置かれている状況や自分の性格は変えられませんし、「ストレスを感じるな!」「適当に手を抜け!」と言われても急には無理な話ですよね。
さらに、病気になった自分を後悔して責めたり、「なんとかして治そう」「今のままではダメだ」とこだわったりする心もまた、柳生宗矩の言葉を借りると「病」であり、実は良くないことなのかもしれません。
では、どうすれば良いのか・・・
難しいことですが、まずはあるがままの自分を受け入れる、「自然体でいる」ということが大切なのではないかと思います。
わたしたち医療従事者ができることは、不調の原因を突き止め、お薬を使って症状を和らげるお手伝いをすることぐらいです。残念ながら、複合的な要因で起こっている病気のすべてを根本から解決することはできません。
調子が悪い、しんどい時はうまく医師やお薬を頼っていただきながら、病気とうまくつきあっていくという心構えが大切です。
精神論だけで病気を語ることはできませんが、「何とかしよう」という思いから生まれる苦しみから解放された先にこそ、お薬に頼らない「本当の病気の治癒」が待っているのかも知れません。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ