無意識を意識する:その②「小麦」
みなさん、朝ご飯は「ごはん派」ですか?「パン派」ですか?
焼きたての外カリ、中ふわなパンに、バターをたっぷり塗って頬張る・・・うまいですよねぇ。
ちなみに、この「朝食にパン」という習慣を定着させたのは、かのエジソンだそうです。
かつての食事は、朝食なしの1日2食というのが一般的でした。
自ら発明したトースターを売るために天才発明家が考えたキャッチフレーズにまんまと世界中の人々が踊らされ、食の常識が一変したわけです。
流石はエジソン、商売の仕方まで天才なんですね。
わたしは朝に主食を食べない派(紅茶とくだもの程度)ですが、今や日本でも朝の主食はパンが主流になっています。
・・・でも、毎朝のパンに代表される小麦の慢性的な摂り過ぎには、気を付けた方が良いかも知れません。
「いつものパンがあなたを殺す」・・・という過激なタイトルの本はご存じでしょうか?
アメリカの神経科医デイビッド・パールマター氏らが小麦とグルテンの弊害を説いたこの本は、世界的なベストセラーとなりました。
「小麦は悪だ!」と謳う書籍は、この他にも続々と出版されています。
まだまだ根拠が不十分な面もありますので、これらの内容を全て鵜吞みにする必要はないと思います。
ですが、もしみなさんが日ごろから、疲れがとれない、集中できない、頭痛、不眠、うつ、お腹が張る、よく下痢をするといった体の不調を抱えているとしたら、その要因の1つが小麦である可能性は否定できません。
小麦はパンだけでなく、パスタやうどん、ラーメン、そうめんといった主食からクッキー、ケーキなどのお菓子、関西人が大好きな粉もん、揚げもん(パン粉、唐揚げ粉、てんぷら粉)、カレールーに至るまで、ありとあらゆる食品に含まれています。
普段から気を付けていないと、何気ない生活の中で無意識のうちに小麦を慢性的かつ過剰に摂取してしまいます。
「お腹が張ってしんどいし、便もずっと緩いんです。」
「他の病院で胃腸薬をもらって飲んでいるけど、全然良くなりません。」
と言って来られた患者さんの食生活を聞いてみると・・・
朝はパン、昼はうどんやサンドイッチ、夜は遅くにカップ麺やから揚げ・とんかつなどのお惣菜、コンビニ弁当なんかで済ませています・・・といったもの。
ご本人は全く自覚されていないのですが、それ、ほぼ小麦だけで生きてますね・・・。
そりゃあ、まずい・・・。
薬をどうこうするより、まずは「食生活を見直しましょうよ。」という話をします。
確かにパンや麺類ってお手軽で、お財布にも優しくて、お腹もいっぱいになるのですが、「腹持ちが良い」というのは、裏を返せば「消化が悪い」ということでもあります。
小麦粉には「グルテニン」と「グリアジン」というタンパク質が含まれており、水を加えてこねると、2つのタンパク質が絡み合って粘り気のある「グルテン」に変わります。
あのパンや麺のモチモチ・ふわふわ食感の正体は、この「グルテン」です。
とくに現代の小麦は、みんな大好きなモチモチ食感を高めるために遺伝子組み換えなどで改良され、古代腫とは比べものにならないぐらい多くのグルテンを含む品種となっています。
実はグルテンは分解・消化されにくいタンパク質であり、簡単には便として体の外に出ていかず、長い間腸に留まり、粘膜に貼り付いてしまいます。
胃が疲れているから、今日はあっさりと「うどん」にしよう。
夏バテの時はやっぱりスルッと食べれる「そうめん」だよね〜。
・・・は、残念ながら間違いです。
みなさんの思いとは裏腹に、麺に含まれるグルテンは消化が悪いので、このような食事が続けば余計に胃腸は疲弊してしまいます。
さらに腸に貼り付いたグルテンは、病原体やアレルギー物質が侵入しないように守っている腸のバリア機能を緩めてしまうと言われています。
このようなバリア機能が緩んだ腸の状態を「リーキーガッド症候群」と呼びます。
リーキーは「漏れ出す」、ガットは「腸」を意味し、日本語では「腸漏れ」とも訳されます。
小麦は、全身の免疫機能を狂わせる発端となる「腸漏れ」の原因の1つだと考えられているのです。
そして、「腸漏れ」はアレルギー疾患、糖尿病、高脂血症、肥満、うつ病、認知症、過敏性腸症候群などさまざまな病気の発症や悪化に関わっていると言われています。
つまり小麦は、小麦を口にしただけですぐに体調を崩すような分かりやすい「グルテンアレルギー」や「グルテン不耐症」といった体質の人だけでなく、小麦製品を普段からよく食べているみなさんとっても、知らず知らずのうちに体に悪影響を及ぼしている可能性があるのです。
さらにパンはグルテンだけでなく、かなりの量の砂糖を含んでいます。
そもそも小麦の主成分が糖質(でんぷん)ですので、パンを食べると食後に血糖値が急激に上がります。
血糖値の急上昇は眠気や集中力の低下を生じ、数時間後には今度は急激な血糖値の低下から、疲労感を感じる原因にもなります。
また、パンには他にも、安く美味しく大量に生産するための乳化剤、増量剤といった添加物や、ショートニング(人工油脂)など、決して体にやさしいとは言えないものがてんこ盛りです。
じゃあ、小麦が簡単にやめられるのかと言ったら・・・
それも、そんなに簡単なことではありません。
あらゆる食べ物に入っているので、完全な「グルテンフリー食」を実践するのが物理的に難しいという理由だけではありません。
パンやラーメンって、時々、無性に食べたくなりませんか?
飲んだ後の〆のラーメン・・・どう考えても超絶カロリーオーバーですが、最高ですよねぇ・・・。
あかんと分かっていても、ついつい魔性の誘惑に負けてばかり。
完食と同時におそろしい後悔が押し寄せますが、もしかしたら単にわたしの意思が弱いということだけではないのかもしれません。(いや、そうに違いない!)
グルテンは体内でエクソルフィンという物質に分解されます。
こいつが麻薬のモルヒネにそっくりの構造なのです。
エクソルフィンが吸収されて脳内に入ると、モルヒネが作用するのと同じ受容体を刺激し、快感をもたらすことがわかっています。
つまり、小麦を食べれば食べるほど、
パンうまい!
ラーメン最高!
うどん万歳!
粉もん命!
揚げもんラブ!
もっと食べたい!
毎日食べたい!
ずっと食べたい!
という依存状態、もっと言えば中毒になるのです。
「パンを食べない生活なんて絶対無理・・・」と思っているそこのあなた!
すでに、小麦の魔力にどっぷりと毒されているのかも知れませんよ。
では、「もしかしたら、小麦の食べすぎが体の不調の原因かも・・・」と思い当たる方は、どうすればよいのでしょうか?
いきなり「小麦を全部やめてやる!」と意気込むのではなく、依存状態から脱却するために、まずは1日に1食だけでも小麦を食べないように工夫することから始めましょう。
そして徐々にで良いので、日本人に合った肉、魚、野菜、果物、そば、米を中心とした和食に切り替えていきましょう。
(同じく炭水化物である米もダメという考えもありますが、ひとまずは置いておいて)
2週間小麦を食べない、あるいは減らしてみて体調が良くなれば、小麦の摂取が体の不調に関係していた可能性が高いと思います。
もちろん、毎朝のようにパンを食べ、麺類もケーキもよく食べるのに、何の病気も体の不調も感じない元気な方もたくさんおられます。
みんながみんな「パンがあなたを殺す」「小麦は悪だ!」という考え方に、振り回される必要はありません。
まずは、普段あまり深く考えることのない「食」という無意識を意識することから、自分の体について考え直してみてはいかがでしょうか?
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医