無意識を意識する:その①「噛みしめ」
- 2021年10月3日
- 呑気症
みなさん、軽く口を閉じてみてください。
口を閉じた状態で上の歯と下の歯は、当たっていますか?
それとも当たっていませんか?
「当たっている」と答えたそこのあなた。
・・・要注意です。
もしかして「えっ、口を閉じている時は噛んでいるのが普通でしょ?」と思っていませんか?
実は、何もしていない時には上下の歯は触れずに2mm程度離れているのが普通です。
歯と歯が嚙み合わさるのは食事や会話をする際のわずかな時間だけ、というのが本来の正しいあり方。
その合計は1日でたったの17分が正常だと言われています。
17分! そんなに短いとは・・・驚きですね。
普段から無意識に上下の歯が触れ続けてしまう状態のことを、歯医者さんの分野では「歯牙接触癖」(Tooth Contacting Habit:TCH)と呼んでいます。
何もしていないときの口の状態を意識することなんてまずありませんので、気が付いていない方が大半ですが、この「癖」をお持ちの方は実はとても多いのだそうです。
そう言われて意識しちゃうと普段がどうなのかよく分からないなぁ・・・という方は上下の歯を当てずに5分間口を閉じてみてください。
なんだか落ち着かないなぁ、ついつい噛みたくなったよ・・・という方は普段から上下の歯が当たっている、つまりTCHの状態が疑われます。
じゃあ、常に噛んでるといったい何が悪いのか?
上下の歯が触れていると、咬む筋肉が常に緊張し、顎の関節にも大きな負担がかかるために、長時間続いた後にはとても疲れてしまいます。
噛むときの痛み、歯周病、歯肉炎といった歯の病気はもちろんのこと、顎関節症、首・肩のコリや頭痛、めまいなど、さまざまな不調を引き起こす原因となります。
そして、実はわれわれ胃腸科とも深いかかわりがあります。
みなさんは「げっぷがよく出る、お腹が張る、ガスが溜まる」といった症状が続く時に、まずは胃腸の不調だと思ってしまうでしょう。
ですが、この「歯牙接触癖」、つまり無意識の噛みしめから生じる「呑気症」が原因となっていることが少なからずあります。
呑気症のことはこれまでにも何度かこのブログで書きました。
無意識に歯を噛みしめ、空気を呑み込んでしまうことで、胃に大量の空気が溜まり、さらに腸に流れてげっぷやお腹の張りを起こす病気です。
日本の8人に1人が悩まされていると言われています。
歯と歯が当たっていると唾液が出るために、歯牙接触癖の方は無意識に唾液を飲み込む頻度が増えます。
その際、唾液と一緒に空気を飲み込んでしまうので、どんどんお腹に空気が溜まるのです。
つまり「歯牙接触癖」と「呑気症」は密接に繋がっています。
みなさん、歯と歯を嚙まないで唾を呑み込んでみてください。
・・・難しいですよね。
サザエさんみたいに「ふんがっふっふ」って感じにならないと飲めません。(このニュアンス伝わるか?)
歯を噛まないと唾は簡単に呑み込めませんので、リラックスしている時に歯が触れていない人は唾や空気を無意識に呑み込むことは少ないはずです。
つまり呑気症は、「症状」は「胃腸」に表れているけど、「根本」は「口」の問題なのです。
これが、胃腸の薬を飲んでもあまり良くならない理由です。
では、どんな時にこの「癖」が起きやすいのでしょうか?
実は単に物事に集中しているだけでも、上下の歯は自然と接触してしまいます。
下を向いて行う精密な作業、パソコンや事務仕事、車の運転、スマホの操作、ゲーム、読書、料理や掃除・・・こうした時に歯と歯を噛んでいないか、一度意識してみてください。
ほら、噛んでるでしょ?
そう、何も特別なことではなく、みなさんが普通にしている日常の動作が無意識に歯を噛みしめる「癖」のきっかけになります。
ここに、さらにストレスや緊張を感じるとなおさらです。
緊張する場面では、大抵は無意識に歯をグッと噛みしめているはずです。
緊張は「全身」よりもまず「口」に出るのです。
例えば「胃カメラ」を受ける前って、とっても緊張しますよね。
患者さんに胃カメラを入れると、検査の前に緊張でゴクゴクと呑み込んだ唾と空気が胃に大量に溜まっている・・・という事が珍しくありません。
ストレスを抱えた呑気症の方は、普段から胃がこんな状態のなんだろうなぁ・・・と想像しながら検査をしています。
歯の噛みしめ癖に加えて、日ごろからストレスを感じているあなたは要注意です。
では、噛みしめないようにするにはどうしたら良いのでしょうか?
まず、ブログのタイトル通り「無意識を意識する」、つまり自分にその「癖」があることに気付くということが第一歩です。
ふとした瞬間に、「あっ、今噛んじゃってるわ」と気付いたら、すぐに歯を離す、あるいは口を開けてリラックスを心掛けます。
今はコロナ禍で外では1日中マスクをされていると思いますので、マスクの下でポカンと口を開けておくのも良いと思います。
しかし、何気ない日常の中で「無意識を意識する」、そして「癖を治す」というのはそう簡単ではありません。
無意識を意識するためには、部屋や勉強机、パソコン、スマホケースなど目に付くところに「噛んじゃダメ!」「歯を離す!」「口開けてリラックス!」などと書いた付箋を貼っておいたり、意識できるまで定期的にスマホアプリのリマインダー機能で知らせたりするなどの対策が有効なようです。
これを続けることで、「歯が触れたら離す」が無意識に習慣化すれば勝ちです。
げっぷが多い、お腹が張るという人は、まずは無意識の「噛みしめ癖」が無いかどうかを意識してみてください。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医