潰瘍性大腸炎の新薬:オンボー
2023年6月から、潰瘍性大腸炎の患者さんに対する新たな治療薬として、抗IL-23p19モノクローナル抗体製剤であるオンボー(一般名:ミリキズマブ)が加わりました。
さて、どのようなお薬なのでしょうか?
オンボーは、インターロイキン(IL)-23という「サイトカイン」の働きを選択的に抑える生物学的製剤です。
サイトカインとは、「サイト(細胞)」と「カイン(動きに関わる)」という言葉の組み合わせが語源となっている通り、細胞と細胞の間で情報の伝達を行うタンパク質です。
サイトカインにはたくさんの種類があり(今ではなんと数百種類以上が発見されています!)、免疫を調整するもの、細胞の数や移動を調節するもの、ウイルスや腫瘍の増殖を抑えるもの、炎症を引き起こすもの、逆に炎症を抑えるものなど、その性質は多岐にわたります。
わたしたちの身体の中は、これらのサイトカインが状況に応じてバランスよく分泌されることで、細胞のレベルで絶妙に整えられているのです。
IL-23は、主にマクロファージという免疫を担当する細胞から分泌されるサイトカインです。
白血球の一種であるヘルパーT細胞(Th細胞)のうち、Th17細胞を活性化する作用があり、普段は体が真菌(カビ)と戦うための免疫などを担っています。
ところが、何らかの要因でIL-23の分泌が増えすぎ、Th17細胞が過剰に活性化すると、IL-17などの炎症を引き起こすサイトカインが多量に分泌されるため、潰瘍性大腸炎やクローン病といった病気が発症したり、病状を悪化させたりしてしまいます。
潰瘍性大腸炎においては、すでにステラーラ(一般名:ウステキヌマブ)というIL-12とIL-23という2つのサイトカインを同時に抑える同系統のお薬が使われてきました。
IL-12も炎症に関わるサイトカインの1つですが、その主な役目は急性炎症が起きる時の言わば「引き金」に過ぎません。
また、IL-12には腫瘍の増力を抑えたり、菌やウイルスによる感染を防御したりする大切な役割があると言われています。
一方のIL-23は、「慢性炎症の根源」とも言えるサイトカインであり、すでに腸炎が慢性化してしまっている潰瘍性大腸炎の炎症を鎮めるためは、このIL-23をいかにしっかりと抑えるかが重要になってきます。
今回、潰瘍性大腸炎の治療薬として新たに承認されたオンボーは、IL-12には作用せずにIL-23の働きだけを選択的に抑えるため、抗炎症効果だけでなく高い安全性にも期待が持てる薬剤です。
クローン病には、IL-23だけを抑える同系統の生物学的製剤であるスキリージ(一般名:リサンクズマブ)がすでに使われています。
中等症から重症の潰瘍性大腸炎に対するオンボーの治療は、まず炎症を抑えるために点滴投与(300mg)を4週間隔で3回(初回、4週、8週)行います。
3回の点滴が終わった12週の時点で有効だった場合には、4週間隔の皮下注射(200mg)による維持治療に移行します。
12週の時点で効果が不十分だった場合には、さらに4週間隔で3回(12週、16週、20週)の点滴投与が可能です。
従来の治療または生物学的製剤、JAK阻害薬が無効だった中等症から重症の潰瘍性大腸炎の患者さんを対象とした臨床試験では、12週時点での臨床的寛解24.2%、40週時点の臨床的寛解が49.9%と、いずれもプラセボに比較して有意に高い確率を示しました。
また、副作用として頭痛や上気道感染などが報告されていますが、このお薬特有の問題点はなく、今のところ安全性が高い印象を持っています。
ただ、よいところばかりのようにも思えますが、患者さんにとっては問題となる点も・・・
御多分にもれず、他の生物学的製剤と同様にオンボーは非常に高価なお薬です。
その薬価は、
点滴1回300mgが19万2332円、
皮下注射1本(100mg)が12万6798円でこれを毎月2本投与します。
もちろん、全額を負担していただくわけではございませんが、難病の申請をしていても、毎月の上限額までお支払いいただく必要があります。
オンボーは、現時点では自宅での皮下注射(自己注射)が認められておらず、医療機関で行う必要がありますので、病気が落ち着いてからも毎月通院しなくてはいけないという手間と、毎月上限額までかかるお支払いが、患者さんにとってはご負担となります。
他の点滴や自己注射ができる生物学的製剤は、状態が落ち着けば2~3か月毎の通院で対応できますので、この違いがオンボーを選ぶうえでややネックとなる点です。
最初からこのお薬を選んでいただくことはもちろん可能ですが、患者さんのご負担を考えると今のところは、同系統の薬剤であるステラーラで効果が不十分な方や、活動性が高く短期間に集中して治療が必要な方などが、現実的なオンボーの適応対象ではないかなと考えています。
将来的にオンボーに自己注射が認められれば、通院する回数を減らせますので、適応の対象はさらに広がると思います。
さて、この新しい治療薬が加わったこともあり、患者さんが治療を選ぶ際に用いている説明用紙を刷新しました。
この表を参考にしていただきながら、患者さんの病状とニーズに合った治療法を一緒に考えていきたいと思います。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医