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ひだ胃腸内視鏡クリニック

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泡の革命:レクタブル

泡の革命:レクタブル

2021年8月30日のブログで潰瘍性大腸炎の局所治療について書きましたが、今日はその続き。ステロイドの注腸について書きます。

ステロイドの注腸は5-ASA製剤だけでは炎症が引かない潰瘍性大腸炎(UC)、とくに直腸からS状結腸を中心に炎症がある方に対して使用する薬剤です。

 

・・・とは言うものの、実際に使うUC患者さんにとっては、注腸ってそう簡単なことではありません。

注腸による治療を提案しても、大抵は嫌がられてしまいます。

 

なぜなら・・・

 

炎症がある活動期には、便を催す回数が増えます。

ひどくなると便自体はお尻の近くまで降りてきていないのに、直腸の炎症によって強い便意を催し、粘液や血液だけが1日に何度も排泄されるようになってしまいます。これを「渋り腹」と言います。

 

このような状態の方に、液体のステロイド注腸(ステロネマ、プレドネマ)を入れてもらっても・・・我慢できずにすぐに薬が出てしまいます。

薬が粘膜に吸収されて効果が発揮されるまでには少なくとも30分程度はかかりますので、その間薬液を腸に留めて我慢しなくては、せっかくがんばって注腸を行っても残念ながら炎症を抑える効果は望めません。

 

実はそもそも、炎症が無い健康な人でも肛門近くに降りてきた「液体」を出さずに我慢するのは難しいことです。

肛門には、降りてきたのが「固体」か「液体」か「気体」か、すなわち「普通便」か「下痢」か「おなら」かを瞬時に見分けることができる感覚受容器が備わっています。

そして肛門の生理機能というのは非常によくできていて、「固体」を直腸に残したまま「気体」だけを出すという離れ技までもやってのけます。時には「実弾」と「空砲」を間違えることもありますが・・・(実体験)(←なんのカミングアウトやねん)

ところが、「液体」は肛門を刺激して便意を催すという生理現象を引き起こします。

ウォシュレットで肛門付近を刺激した感覚を想像していただくと、分かりやすいのではないでしょうか?

便意を我慢できませんよね?

 

つまり、健康な状態でも便意を我慢して「液体」を溜めるのはただでさえ難しいうえに、さらに炎症があるUCの患者さんにとっては、至難の技なのです。

 

「うまくできない」

「我慢できない」

「面倒くさい」

「重いしかさばる」

・・・これが、今までの液体の注腸製剤に対して多くのUC患者さんが抱く感想でした。

 

そこで、2017年に新しく登場したのがレクタブル。

これまでにない画期的な「泡」のステロイド注腸製剤です。

「泡」は液体よりもはるかに刺激が少なく、炎症があるUCの患者さんにとって我慢しやすい優しい製剤であるということが最大の特徴です。

しかも、炎症を抑える効果が高く、全身に吸収すると不活化されるステロイド(ブデソニド)が使われているので、良く効く割に副作用も少ない。

さらに、これまでの液体の注腸が1回1本だったのに対して、レクタブルは14回分の薬が1缶に入っており軽くて持ち運びもしやすいなど、いいことずくめ。

立ったまま入れられるので、やろうと思えば会社や学校のトイレでもできてしまいます。

 

しかし、実はこの薬が発売された当初、わたしはちょっとした懸念を持っていました。

それは、たった20mlの泡の薬が本当にちゃんとS状結腸まで届くのか?ということ。

 

これまでの液体の製剤は50ml〜100mlであったのが、レクタブルの泡はたったの20ml。

直腸とS状結腸の境目は大きく曲がっており、いくら勢いよくお尻から泡の薬を撒いたところで、上まで届くはずもないのでは・・・。

 

ところが頂いた資料によると、入れた直後には直腸にしか届いていないレクタブルが、時間の経過とともに徐々に上(口側のS状結腸)に昇っていくことを示していました。

 

泡が自ら昇る? そんなことあり得る? ホンマかいな・・・

 

半信半疑でしたが、調べてみると、実はこのレクタブルの泡にはとても興味深い特徴があったのです。

それは、簡単には消えない「強固な泡」だということ。

試験管に入れた泡の上から水を撒こうが、ウンチを模した粘土で押し潰そうが、まったく消えないということに気付きました。

つまり、腸の中という環境では、下痢便が流れきても、固形便が流れてきても、腸の運動で押し潰されても、レクタブルの泡は簡単には消えてなくならないということです。

そして、その泡の特徴ゆえに、入れた瞬間は直腸にしかないレクタブルが、時間の経過とともに徐々に上に昇っていくのではないかと考えられます。

 

面白いですね。

 

この進化した注腸製剤が登場したおかげで、患者さんに大きな負担を掛けることなく、直腸やS状結腸の炎症がコントロールできるようになりました。

レクタブルの名前の由来は、直腸(Rectum)と泡(Bubble)から来ているのですが、活動期のUC患者さんでも注腸ができる(able)という意味合いも感じられます。

 

やればできるレクタブル。

それは、まさに「泡の革命」です。

 

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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ

日本消化器内視鏡学会専門医

日本消化器病学会専門医、評議員

日本消化管学会胃腸科専門医

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