日本人には牛乳が合わないって本当?その①
みなさんの周りにも、牛乳を飲むとお腹がゴロゴロ鳴る、張る、痛くなる、下痢する・・・といった症状が出る方がおられるのではないかと思います。
こういった症状が出る方は、「乳糖不耐症」と呼ばれています。
いくら乳製品が腸活によいとは言え、体質的に摂ることが難しい方もいらっしゃるのです。
牛乳には「乳糖」という哺乳類のミルクにしか存在しない特別な糖質が含まれています。
乳糖は小腸から分泌される乳糖分解酵素(ラクターゼ)によって、ブドウ糖とガラクトースに分解され、小腸から栄養として吸収されます。
ところが分解されない「乳糖」そのものは、体に吸収することができず、大腸に到達して下痢や腹痛などを起こすことがあります。
では、「乳糖不耐症」の方が乳糖をうまく分解できない病気なのかと言うと・・・実はそうではありません。
ある意味とても「正常」な反応を体がしているだけ、とも言えます。
わたしたち「ヒト」は哺乳類です。
哺乳とは、子に母乳を飲ませて育てることを意味しています。
ですから、赤ちゃんがミルクを飲むのは当たり前です。
ところが、大人になってからもまだミルク(母乳じゃありませんけど)を飲んでいるのは、哺乳類の中で「ヒト」だけです。
子供がいつまでも母乳を飲み続けていると、乳汁を分泌するためのホルモンの影響で排卵が起こらず、母親は次の子供を宿すことができません。
哺乳類が子孫を残すためには、「卒乳」する必要があります。
赤ちゃんの時には乳糖分解酵素(ラクターゼ)がよく働くのですが、その働きは徐々に低下していきます。
母乳を栄養分としてちゃんと吸収できるのは、生後間もない一定の期間だけなのです。
乳糖分解酵素の活性が低下していく中でミルクを飲み続けていると、何れはお腹の不快感で飲めなくなっていきます。
その代わりに、デンプンを分解する酵素が働くようになり、親と同じものを食べられるようになっていきます。
つまり、哺乳類には子孫を残すために、自然に「卒乳」できる機構が体に備わっているのです。
乳糖分解酵素の活性は、青年期になると乳児期の10分の1にまで低下し、以降は低活性のままです。
それが正常な哺乳類の成長の過程であり、大人がミルクを飲めなくなるのは当たり前のことです。
じゃあ、逆になぜ「ヒト」の「大人」は牛乳を飲めるのでしょうか?
大人になっても乳糖分解酵素の活性が高いまま保たれ、お腹を壊すことなく牛乳を大量に飲める・・・というヒト達が確かにいます。
そのほとんどは、実は西洋人です。
日照時間が短く、寒冷な西洋の地でヒトが生き残っていくためには、栄養価が高い動物のミルクを消化できる体に進化する必要がありました。
そこに乳糖分解酵素の活性が持続する「突然変異」が起こり、自然に広がったものと考えられています。
一方、古くから酪農を行ってきた西洋人とは違い、日本人を含む黄色人種とアフリカ人のほとんどは、大人になると乳糖分解酵素の活性が低下していきます。
つまり、「乳糖不耐症」が哺乳類のあるべき姿であり、大人になってからも牛乳が飲める「乳糖分解酵素活性持続症」の西洋人が、ある意味特殊と言うか異常なのです。
では、日本人の大人がみんな牛乳を飲んじゃダメかと言うと・・・これもそう単純な話でありません。
長くなってきたので、続きは次回に。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医