日本人には牛乳が合わないって本当?その②
欧米人とは違い、ほとんどの日本人は牛乳に含まれる乳糖を分解する酵素活性が低いというお話をしました。
でも、牛乳や乳製品を食べても全然平気だけどな?
・・・という方もたくさんおられるでしょう。
日本人は遺伝子的には「乳糖不耐症」なのに、いったいなぜなのか・・・?
それは、牛乳を飲み続けることによって、大人になってからも牛乳が飲めるように体が適応した結果です。
ほとんどの日本人は、離乳期を過ぎてからも牛乳を飲み続けています。
ある意味、強制的に・・・。
そう。学校給食です。
給食には、不足しがちなカルシウムを補うために、お安く効率的な牛乳が毎回出されます。
これは、国の方針です。
牛乳を飲むという習慣は、欧米から日本に伝わりました。
戦後の子供の栄養不足をなんとかしようと、バターを作ったあとに残る脱脂粉乳(アメリカでは馬のエサだそうな・・・)が給食に出されるようになったのが始まりで、後に牛乳へと変わります。
ところが、欧米では牛乳は主にバター、チーズ、ヨーグルトなどの原料として消費されており、生乳の6割を飲用するという日本の消費形態は、実は世界から見ると特異なのだそうです。
大人になってからも牛乳を飲む習慣は、給食からの刷り込みなんですね。
実は、わたしは牛乳が苦手です。(飲めますけど)
お腹を壊すという訳ではなく、ただ単に味とにおいがちょっと・・・
給食当番:「今日のメニューは、ヒジキの煮物、くじらのノルウェー風(←昭和!)、パン、ピーナッツバター、牛乳です。いたーだきーます!」
・・・いや、いただかれへんわ!
ひじきの煮物をおかずにパン・・・って、無理やろ!
ピーナッツバターも甘いから苦手やし、牛乳で流し込むのも牛乳嫌いにはきっついねん!
・・・と、心の中で思っていました。
冷たかったらまだしも、夏場のぬるーい牛乳は地獄。
ときおり付いてくる牛乳に混ぜたらコーヒー牛乳になる、魔法のコーヒーの粉が「救世主」に見えたわ。
・・・いや、話が脱線してしまいました。
牛乳をずっと飲み続けていると、分解できないはずの乳糖を分解できるように体が、正確に言うと「腸内細菌」が順応していくようです。
2018年に興味深い論文(Kato K, et al. Pros One)が出ています。
要約すると、
・調べた日本人全員が、乳糖分解酵素が少ないタイプの遺伝子型だった。
・つまり、日本人は乳糖が小腸で分解・吸収されにくく、大腸にそのまま到達しやすい。
・その結果、大腸で乳糖をエサにして育つビフィズス菌が増殖する。
・乳製品の摂取量が多い人ほど、ビフィズス菌の割合が高かった。
以前から、日本人は腸内細菌の中でビフィズス菌が占める割合が欧米人よりも高いと言われていました。
その理由が、本来は分解できない「苦手」な乳製品を摂り続けた結果だということが分かってきたのです。
小腸で吸収されずに大腸まで流れ着いた乳糖は、ビフィズス菌などの乳酸菌によって分解され、乳酸や酢酸や酪酸などの安全な代謝物になって吸収されていきます。
日本人は遺伝子的には全員が「乳糖不耐症」であっても、実際に牛乳を飲んで下痢をするような方が少ないのは、乳糖を分解する乳酸菌が腸の中でたくさん増えたおかげなのです。
みなさんご存じの通り、ビフィズス菌は体にとって有用な働きをする善玉菌の代表格です。
長寿にも関わっており、健康長寿の人の大腸には高齢になると減るはずのビフィズス菌や酪酸菌が多いことがわかってきました。
日本人が世界一の長寿国になったのは、もしかすると本来は苦手なはずの牛乳を、学校給食を通じて子供のころから飲み続けてきたおかげなのかも知れません。
どうやら、「飲める体質」を獲得された方にとっては、牛乳は体にとってよい働きをしてくれそうです。
一方で、「飲めない体質」のままの方にとっては、牛乳は害にもなります。
日ごろからおなかがゴロゴロする、ガスがたまる、おならがよく出る、下痢をするといった症状のある方は、やはり乳製品は避けた方が良いでしょう。
過敏性腸症候群と診断されている方の中にも、実は乳糖不耐症だという方がいらっしゃいます。
お腹の不調を感じた時は、乳製品に限らず、どんな物を食べた時に調子を崩しやすいのか、一度考えてみてください。
もしかすると、何気なく毎日のように飲んだり食べたりしているものが、不調の原因なのかも知れませんよ。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医