小さい大腸ポリープは取る?取らない?その②
日本では、小さい大腸ポリープ(腺腫)を「取る」「取らない」で医師の意見が真っ二つに分かれてしまっています。
小さい大腸ポリープ(腺腫)を取らない「経過観察」派の意見は、「悪性化率が低い」「費用に見合う効果がない」「出血や穿孔の危険性があるので避けたい」「小さいポリープを切除していたらきりがない」といったものです。
5mm以下の小さな腺腫は大きさが倍になるまでに通常は4~5年ぐらいかかると考えられており、中にはほとんど大きくならないものもあります。ですので、直ちに切除する必要は無く、経過をみて6mm以上になったら切除すれば良いと言うのは、確かに理にかなった考え方です。
ただし、これは患者さんに1~2年に1度、定期的に大腸カメラを受けてもらうと言うのが前提の話です。
一方で小さい腺腫もすべて取る「クリーンコロン」派の意見は、「患者が次の再検査に応じるか分からない」「経過観察が何かの都合で遅れても心配ない」「摘除しない理由がない」「後々大きくなったら結局は摘除する」「経過観察のリスクを背負えない」といったものです。
小さいポリープの中には例外的に急に大きくなるポリープもありますし、内視鏡で切除して病理検査ではじめて分かる微小ながんが稀にあることも事実です。しかも、「1年後にまた検査を受けてくださいね」と説明しても、受診しない患者さんは少なくありません。
とすれば、「あの時に取っておけば良かったのに・・・」とならないように、一度の内視鏡検査の機会を生かして、小さな腺腫も徹底的に取ってクリーンコロンにすべきである、という考えもまた一理あります。
しかも、先日お話しした「コールドポリペクトミー」という新たな技術によって、小さなポリープをより安全に手間なく取れるようになったこともあり、クリーンコロンへのハードルはかなり下がっています。
そういった背景を踏まえて議論された結果、今年改訂された大腸ポリープ診療ガイドライン2020改訂第2版では、「径5mm以下の隆起性腺腫は内視鏡切除して良いが、経過観察することも容認される」という記載に変更されました。ただし、科学的根拠が十分ではないので、弱い推奨です。
・・・なんとも微妙な表現ですが、「内視鏡切除して良い」の文言が「経過観察」より先に加わりました。ポリープを取る技術の進歩が、治療の方針を変える後押しになっているように感じます。
わたし自身は「クリーンコロン」派です。
治療の方針に明確な答えがない時、わたしは自分や家族が患者の立場だった場合にどうしてほしいかを第一に考えます。自分や家族なら、「例え小さくても腺腫は切除してもらった方が安心だ。」と思います。
確かに、小さい腺腫も取るべきだという医学的な根拠はまだ乏しいのですが、「がん化する可能性のあるポリープがあると分かっているのに、何もせずに様子をみる」という選択をされた患者さんには心理的な負担もあるでしょう。
出血や穿孔といったデメリットが小さくなった今、取らずに「いつか急に大きくなるのでは?」という不安を抱えながら毎年のように検査をする意義はそれほど感じません。
もちろん、以前お話ししたように1回の検査ではポリープが見逃されていることがありますので、見えた腺腫をすべて取ったとしても、何度か大腸カメラを受けることは必要です。
「クリーンコロン」になったことを何度か確認すれば、その後の大腸カメラの間隔を数年間空けることも可能になると思います。そうすれば、腺腫を取らずに毎年経過を診るよりも、最終的な医療費も抑えられるはずです。
西宮市田中町5-2西宮駅前メディカルビル3F
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ