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坐剤や注腸は大変だけどとても大切です

坐剤や注腸は大変だけどとても大切です

先週、「潰瘍性大腸炎の局所治療と病診連携の重要性」というテーマでWEB講演を行いました。

共催メーカーさんによると、ご視聴していただいた方は全国でなんと約3000人!

・・・驚きました。

コロナ前、地方に講演で行脚していたときの参加者が1回でせいぜい10〜30人だったことを考えると、WEBの力ってホントにすごいですね。

さて、今回の講演は開業医の先生を中心にたくさんの方々に聞いていただけたようですが、それだけ潰瘍性大腸炎(UC)の患者さんが増えており、注目されている証でもあります。

昔はUCと言えば消化器内科医でもめったに診る機会がない「まれな病気」だったのですが、今や全国の患者さんは推定22万人以上にまで膨れ上がり、当たり前のように診る「一般的な病気」になりました。

 

ですが、「一般的な病気になった」=「一般の消化器医の誰もが診れる病気になった」という訳ではありません。

もちろん、治療指針やガイドラインなどで標準的な治療が示されていますので、ドクターによって治療の方針がまったく違うということはありません。

ですが、それぞれの患者さんにとって最適な治療を行うためには、UCという病気の本質と治療の意味をしっかりと理解している必要があります。

 

そこで今回、UCにおいてとても大切な基本治療である「局所治療」についてお話をさせて頂きました。

UCで言う局所治療とは「坐剤と注腸製剤」、要はお尻から入れるお薬のことを指します。

 

なぜ、お尻から入れる局所治療が大切なのか?

2つの観点から説明します。

 

1つ目はUCという「病気の特性」の観点からです。

UCの最大の特徴は、肛門からすぐの「直腸から病気が始まる」ということです。直腸だけに炎症がとどまる方を直腸炎型、そこから口側のS状結腸〜下行結腸に連続して炎症が広がった方を左側大腸炎型、横行結腸よりさらに口側に炎症が広がった方を全大腸炎型と呼びます。

「なぜ、UCが発症してしまうのか?」については、遺伝子、衛生状態の変化、禁煙、ストレス、腸内細菌のバランスの変化など様々な要因が関わることが分かってきていますが、「なぜ、UCの炎症が直腸から始まるのか?」については未だに大きな謎であり、これだけ研究が進んだ現在でも全くその理由が分かっていません。

 

もうひとつの炎症性腸疾患であるクローン病は、回盲部という場所によく炎症が見られますが、他の消化管にも飛び飛びに炎症を起こします。

クローン病のように病気が起こりやすい「好発部位」があり、他の場所にもできるというのが、腸以外のあらゆる病気においても一般的な事です。

ところが、UCは一部の例外を除いて必ず「直腸から炎症が始まる」のです。

一旦落ち着いた後に炎症がぶり返すときも、ほとんどが直腸から再燃します。

これは本当に不思議なことです。

直腸から炎症が始まることには、絶対に何か大きな意味があるはずなのですが・・・。

 

また、長年UCを患った方には大腸がんが合併しやすくなってしまうのですが、そのうち約8割は直腸からS状結腸までにできてきます。

つまり、局所治療を用いて「炎症の始まり」の場所である直腸の炎症をしっかりと抑えることが、再燃の予防や発癌の予防にも繋がるのです。

 

2つ目は「薬剤の特性」の観点からです。

UCの患者さんのほとんどは、ペンタサ、アサコール、リアルダといった5-ASA製剤というお薬による治療を受けておられます。

5-ASA製剤は腸の炎症を抑える効果があり、かつ長く服用しても安全性が高いことから、炎症性腸疾患の基準薬として使用されているお薬です。

このお薬の最大のポイントは、一旦体に吸収されてから効くタイプではなく、腸の粘膜に直接作用して炎症を抑えるタイプのお薬だということです。

つまり、飲み薬であっても効き方は「局所作用」なのです。

炎症を抑える効果を発揮するためには、炎症がある腸までお薬が吸収されずにたくさん届くことが必要になります。

 

では、直腸に炎症があるUCの患者さんに「飲み薬」の5-ASA製剤で治療するということが、いったいどういうことなのかと言うと・・・

口から見ると直腸は約8メートルも先の一番遠い場所です。

お薬が食べ物と一緒に直腸までたどり着くには、丸1日以上かかると考えられます。

しかも、口から飲んだお薬は時間とともに溶けて体に吸収されていきますので、直腸まで届くお薬の量は飲んだお薬のうちたったの1/10〜1/20に過ぎないのです。

さらに、下痢をしている方では、届くお薬の量がもっともっと減ってしまいます。

便の回数が1日6回以上になると、届くのは飲んだお薬の量のなんと1/500程度にまで減ります・・・つまり、ほとんど飲んでないのと変わらないぐらいの微々たる量しか届いていないということです。これではなかなか炎症が治まるはずもありません。

こういったことは、患者さんは言うまでもなく、処方しているドクターにも正しく認識されているとは言えません。

 

一方でお尻から入れるペンタサ座薬やペンタサ注腸といった「局所製剤」は、全部の量のお薬がすぐに炎症のある直腸やS状結腸まで届きます。

 

どちらが効率よく腸の炎症を抑える効果があるかと言うと・・・それは、言うまでもなく坐剤や注腸なのです。

 

じゃあ、直腸炎型や左側大腸炎型のUCの患者さんに、効率の良くない飲み薬の5-ASA製剤をわざわざ処方しているのはなぜなのでしょうか?

 

理由の1つは局所製剤の「受け入れ(アドヒアランス)」に問題があるからです。

お尻からお薬を入れて直ぐに出ないようにがまんするのは、患者さんにとってなかなか面倒で辛いことです。

血便が出ていて調子が悪い時は、良くなるために坐剤や注腸をがんばってやれたとしても、調子が良くなった後も再燃しないように一生毎日毎日入れ続けられるでしょうか?

「言うは易く行うは難し」で坐剤や注腸は良いと分かっていても、継続することにかなりハードルがあります。

「いつも夜寝る前にやろうと思ってはいるんですが、疲れて寝てしまってほとんどできてないんです・・・」ということも、よくお聞きします。

 

もちろん飲み薬であっても飲み忘れが問題になることは多々ありますが、全く飲まなくなることは少なく、治療の効率は良くなくても患者さんの受け入れという観点では「まだまし」なのです。

 

下痢や血便の症状があるUCの活動期には、5-ASAの飲み薬に加えてお尻からの局所治療を併用する「挟み撃ち」によって、腸内の5-ASA濃度を高めて炎症を抑えることが推奨されています。

また、飲み薬の5-ASA製剤をちゃんと服用しているのに頻繁に再燃してしまうという場合にも、お尻の近くまでお薬が十分に届いていない可能性が高く、局所製剤を併用することが勧められます。

実際、毎日がんばって局所製剤を続けておられる方の多くは、病状がとても安定して再燃がほとんど起きなくなります。

 

局所治療は確かに大変なのですが、とても理にかなった大切な治療法なのです。

 

最近劇的に進歩したステロイドの局所製剤については、またの機会に書きたいと思います。

 

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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ