内視鏡検査に用いる鎮静剤・鎮痛剤について:その②
胃カメラや大腸カメラを受ける時に、鎮静剤や鎮痛剤を用いることのメリットとは何でしょうか?
メリット① 検査を楽に受けられる
最大のメリットは、やはり検査時に患者さんが苦痛を感じにくくなることです。
内視鏡検査は一生に一度受ければそれで充分、というものではありません。
胃腸の病気を早期に発見するためには、繰り返し検査を受ける必要があります。
そのためには、検査は辛いものであってはいけません。
検査を躊躇なく、いつでも楽に受けていただくために、鎮静剤や鎮痛剤を使うメリットは大きいと言えます。
メリット② 検査の精度が上がる
嘔吐反射が強い方は、胃カメラで詳細に観察することが難しくなります。
ちょっとしたカメラの動きや空気の出し入れだけでオエッとえづいてしまっては、細かなところまで観察ができず、微細な病変を見逃してしまうことになるかもしれません。
また、大腸の検査では、苦痛を感じると腸の緊張が高まります。
腸の緊張による「攣縮」が起こると、カメラを奥に入れるのが難しくなる上に、襞の裏側の部分が見づらくなり、内視鏡で観察できる範囲が狭まってしまう可能性があります。
鎮静剤や鎮痛剤を用いて、胃腸も心もリラックスした状態で受けていただくことは、検査の精度の向上にも繋がるのです。
メリット③ 検査医の心に余裕が生まれる
検査医がどんなに慎重に検査を行っても、胃カメラでえづいてしまう方はおられます。
また、大腸では、腸の曲がりが強い方、癒着がある方など、ベテランの検査医であっても患者さんに苦痛を感じさせることなく、カメラを奥まで入れることが非常に難しい方もおられます。
医者も人の子。
内視鏡検査中に苦しそうにしている患者さんを見ると、どうしても焦りが生まれてしまいます。
検査中は汗びっしょりになりますし、検査後の疲労感や心の落ち込みも半端ありません。
適正な鎮静剤や鎮痛剤の使用は、患者さんだけでなく、検査医の心にも余裕を生み、リラックスさせてくれます。
内視鏡医が検査や処置を最後まで冷静に、正確に行うためにも、鎮静剤や鎮痛剤は大きな役割を担っているのです。
このようにたくさんのメリットがある一方で、デメリットがあることも知っておく必要があります。
デメリット① 副作用が発生する恐れがある
「鎮静剤って大丈夫なの?」
「意識が無くなってしまうのは怖い。」
・・・と、お薬の使用について心配される方もおられます。
確かに、お薬が効きすぎてしまうと、呼吸の抑制、血圧の低下、吐き気、検査後のふらつき、転倒などが起きる危険性があります。
ただし、鎮静剤や鎮痛剤に限らず、すべての医薬品には副作用の可能性があります。
鎮静剤や鎮痛剤だけが、特別に危険性が高いというわけでは決してありません。
また、胃カメラや大腸カメラで使用する鎮静剤の量は、全身麻酔で使う量と比べると少量です。
生体モニターで検査中の患者さんの状態をしっかりと把握することで、安全に使うことができます。
また、わたしたちのクリニックでは、万が一に備えて、酸素や拮抗薬の投与、心肺蘇生などを直ぐに行える準備をしています。
翌日までなんとなくフラフラするという方も稀におられますが、投与後24時間までにお薬のおよそ70-90%が尿から排泄されて出ていきます。
デメリット② 滞在時間が長くなる
鎮静剤や鎮痛剤の効き方には個人差があります。
検査が終わる頃には、すでに意識がはっきり戻っているように見える方もおられます。
ですが、検査直後の移動時に転倒するリスクを避けるため、わたしたちのクリニックではストレッチャーに横になったままの状態で、リカバリー室までスタッフが移動いたします。
その後、リカバリー室で1時間程度ゆっくり寝ていただいてから、スタッフがお声掛けして覚醒の状態を確認します。
中にはなかなか目が覚めない方もおられますし、歩いていただくと酔っ払ったようにふらつく方もおられます。
しっかりと覚醒されたことを確認したうえでお帰りいただきますので、検査のためにクリニックに滞在する時間が長くなってしまうことはデメリットです。
デメリット③ 検査後は自転車・車に乗れない
鎮静剤や鎮痛剤を使用した検査の後、自転車を含めた乗り物が運転できなくなることもデメリットのひとつです。
「しっかり目が覚めたから大丈夫!」と思ってしまいがちですが、一見目が覚めたようでも、後から急に眠くなったり、ふらついたりすることがあります。
ご自身だけでなく、周りの人も巻き込む事故を起こす可能性がありますので、当日の運転は絶対におやめください。
公共交通機関を使うか、ご家族などに送迎をご依頼いただくようにお願い致します。
わたしたちのクリニックは阪神西宮駅の目の前という立地ですので、電車やバスといった交通機関をご利用いただきやすい環境です。
いざとなれば、タクシーの乗り場も目の前です。
以上、内視鏡検査で用いる鎮静剤や鎮痛剤のメリットとデメリットについて、解説しました。
楽に、そして精度の高い内視鏡検査を受けるためにも、鎮静剤や鎮痛剤を使うという選択肢は、今や無くてはならないものです。
ですが、検査を受ける方全員が使う必要があるわけではございません。
使用を希望されない場合でも、できる限り患者さんの負担にならないように、丁寧な内視鏡検査を心掛けています。
メリット・デメリットをしっかりとご理解いただいた上で、鎮静剤や鎮痛剤の使用についてご検討ください。
西宮市田中町5-2西宮駅前メディカルビル3F
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医