健康な人の便を移植すると病気が治る?その②
炎症性腸疾患(IBD)に対する便移植の研究は、まだまだ始まったばかりです。
潰瘍性大腸炎の患者さんで炎症を抑える効果が出なかった理由や課題は、色々と考えられます。
1.便を提供するドナーに適している人をどうやって選ぶのか?
今回の日本の多くの研究では、潰瘍性大腸炎の患者さんの親族や配偶者で健康な方の中から便を提供するドナーを選んでいました。いくら健康とは言え、似たような生活背景を持つご家族から便をもらっても、あまり効果がないのかもしれません。
そもそも、多種多様な腸内細菌がそれぞれどういう働きをしているのかについては、まだ多くのことが分かっていません。
一口に健康な人といっても、腸内細菌のバランスはさまざまですし、人種によっても違います。どういう人の便がベストのバランスで、移植に適しているのかについては、今後の研究課題です。
2.腸内細菌がしっかり定着するように、どんな方法で移植するか?
今はほとんどが大腸内視鏡を使って1回だけ腸に便を撒く方法で移植されていますが、この方法では、腸内環境を変えるのに十分な量の菌を患者さんに定着させられていない可能性があります。
どんな方法で、どれぐらいの量を、何回投与するべきかについては、まだよく分かっていません。菌が定着するまで何度も繰り返して投与する方法として、乾燥させた便をカプセルに入れて口から投与する方法なども研究されていますが、まだこれからです。
3.便移植に短期間で炎症を抑える効果はあるのか?
腸内細菌のバランスが良くなったとしても、今ある腸の炎症や潰瘍がすぐに治るような効果は期待し過ぎなのかもしれません。
わたしは、お薬による別の治療で炎症をしっかり抑えて寛解状態(炎症がゼロの状態)にしてから、便移植を行って腸の環境を整えるのが良いのではないかと思っています。そうすることで、お薬を続けなくても再発しにくくなる(寛解維持効果と言います)可能性があるのではないかと考えます。
つまり、便移植という治療の発想自体が間違っているわけではなく、便を提供する人の選び方や移植の方法、移植するタイミングなどを工夫することで、結果が良い方に変わる可能性は十分にあると思っています。
今後、便移植などの「腸内細菌に注目した治療」が発展して、薬を飲み続ける必要がない、IBDが根本から治ったと言える時代が来ることを期待しています。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ