健康な人の便を移植すると病気が治る?その①
乳幼児期に出来上がっている腸内フローラのバランスを、大人になってから変えるのはそう簡単ではないというお話を書いてきました。
たとえ、ヨーグルトを大量に食べたとしても、善玉菌は数日で「通過」して出て行ってしまいます。
では、健康な人の腸の中に棲んでいるバランスのいい腸内細菌を直接もらうことができたとしたら・・・
便移植は、腸内細菌のバランスの乱れが原因で病気になった患者さんの腸に、健康な人(ドナー)から便をもらって移植することで腸内の環境を整え、病気を治すという発想の治療法です。
移植と言うと大げさに聞こえますが、やり方はとてもシンプルで、腸内細菌がたくさん詰まった健康な人の便を食塩水などで処理をしてから、内視鏡を使って患者さんの腸に直接注入する方法が一般的です。
抗生物質の投与によって腸内細菌のバランスが崩れ、クロストリジウム・ディフィシルという菌が腸の中で異常に増えると、腸に炎症がおきてしまいます。アメリカでは毎年1万人以上が亡くなるとされるこのクロストリジウム・ディフィシル腸炎の患者さんに、健康な人からもらった便を移植したところ、大変効果がありました。
それなら、腸内細菌の乱れが病気の一因と言われる炎症性腸疾患(IBD)の患者さんも、薬を使わず便の移植だけで治せるのでは・・・
国内の複数の研究機関で、活動期の潰瘍性大腸炎患者さんを対象とした便移植の臨床試験が行われました。
その結果は・・・・・残念ながら、ほとんどの研究で潰瘍性大腸炎の炎症を改善する効果は認められないというものでした。
潰瘍性大腸炎よりも腸内フローラの乱れが多いとされるクローン病患者さんについても、便移植の臨床試験が始まっていますが、有効であるという結果はまだ出ていません。
どうして潰瘍性大腸炎の患者さんに便移植がうまくいかなかったのか?
後日、わたし自身の考えを書きます。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ