便秘薬の有効性と安全性
現在、便秘症の治療薬にはさまざまな選択肢があります。
今回ご紹介するのは、3種類の慢性便秘症治療薬
・ルビプロストン(商品名:アミティーザ)
・リナクロチド(商品名:リンゼス)
・エロビキシバット(商品名:グーフィス)
の有効性と安全性を、成人の慢性便秘症患者を対象としたランダム化比較試験14件のシステマチックレビューおよびメタ解析で検討した論文の内容です。
Satish S. Rao, et al. BMC Gastroenterol 2024
ルビプロストン、リナクロチド、エロキシビバットは、3剤とも便をやわらかくする薬(非刺激性便秘薬)に分類されるお薬ですが、それぞれ作用機序が異なります。
論文の結果の説明の前に、簡単に3剤の特徴の解説を。
・ルビプロストン(上皮機能変容薬、商品名:アミティーザ)は、小腸上皮のクロライドチャンネルを活性化し、腸へのCl-イオンと水分の分泌を促進することで、便をやわらかくするお薬です。日本では2012年から使用されています。妊娠中の方には投与できません。
・リナクロチド(上皮機能変容薬、商品名:リンゼス)は、腸粘膜のグアニル酸シクラーゼC受容体を活性化し、腸へのCl-イオンと水分の分泌を促進することで、便をやわらかくするお薬です。腸の動きを促進したり痛覚過敏を改善したりする作用もあるため、慢性便秘症だけでなく、腹痛や腹部不快感のある便秘型過敏性腸症候群の方にも適応があります。日本では2017年から使用されています。
・エロビキシバット(胆汁酸トランスポーター阻害薬、商品名:グーフィス)は、回腸末端部の上皮細胞にある胆汁酸トランスポーターを阻害し、胆汁酸の再吸収を抑制することで、大腸に流入する胆汁酸の量を増やします。胆汁酸は、大腸で水分を分泌させる作用があるため便がやわらかくなり、また大腸の動きを亢進させる作用もあります。食前に内服するお薬で飲み忘れには注意が必要です。日本では2018年から使用されています。
今回の解析の結果、3剤ともにプラセボと比べて有意な便秘の改善効果が認められました。
つまり、便秘症の治療薬として、どれも優秀だということです。
その一方で安全性、つまり起こりやすい副作用に関しては、3剤で特徴が異なり、
「吐き気」の副作用が最も起こりやすいのはルビプロストン(商品名:アミティーザ)、
「下痢」の副作用が最も起こりやすいのはリナクロチド(商品名:リンゼス)、
「腹痛」の副作用が最も起こりやすいのはエロビキシバット(商品名:グーフィス)
という結果でした。
この結果は、実際に臨床でこれらのお薬を使っているわれわれの印象通りのものでした。
ルビプロストンはとくに若い女性で「吐き気」が起こりやすく、また妊娠中に使えないため、若い便秘症の女性には積極的に使いづらい印象を持っていました。
腹痛を伴う便秘症(便秘型過敏性腸症候群)の方にはリナクロチドを使うことがありますが、確かに効きすぎて「下痢」になってしまう方が少なくありません。
また、便をやわらかくするだけでなく大腸の動きを促進するエロビキシバットは、刺激性下剤を飲んだ時のような「腹痛」が起こってもおかしくありません。
逆に言うと、薬の飲み初めにこういった副作用に困らなければ、その後は長期に服用を続けても安全なお薬です。
この3つの治療薬は、便秘症の方にいきなり使うのではなく、「便通異常症診療ガイドライン2023」においては、①生活習慣の改善→②浸透圧性下剤→③上皮機能変容薬または胆汁酸トランスポーター阻害薬と、3番目に位置づけられています。
当院では、まずは浸透圧性下剤に分類されるポリエチレングリコール(PEG)製剤(商品名:モビコール)から便秘治療を開始することをスタンダードにしています。
モビコールの特徴は、
・浸透圧効果で腸に届く水分が増え、便がやわらかくなる
・適切な硬さの便になるように服用量の調節がしやすい
・ほぼ体に吸収されないので安全性が高い
・年齢を問わず小児にも使える
といったものです。
ただし、液体に溶かしてから飲む手間があったり、味が受け付けない、お腹が張るといった方もおられたりしますので、これだけですべてうまくいくわけではありません。
これらのお薬の特徴をよく知ったうえで、個々の便秘症の患者さんに合ったものを使い分けるのが肝心です。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医