ワクチンで帯状疱疹の予防を!その1
帯状疱疹は、子供の頃に感染した「水ぼうそう」のウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルス:VZV)が原因で起こる病気です。
「水ぼうそうにかかった記憶なんてないなぁ・・・」と言う方でも、実は知らないうちにウイルスに感染していることがほとんどです。
日本人の成人の実に90%以上が、VZVに感染していると考えられています。
水ぼうそうが治った後、大人になってからも、このウイルスはひそかに体内(神経節)に潜み続けています。
そして、過労やストレス、加齢などによって免疫力が低下すると、再び活性化します。
この時に発症するのが、水ぼうそうとは違う皮膚の病気「帯状疱疹」です。
「帯状疱疹」の字のごとく、胸や背中、お腹や顔などの皮膚に水ぶくれを伴う赤い発疹が帯状に現れるのが特徴で、神経にも炎症を起こすために痛みを伴います。
通常は3~4週ほどで治りますが、神経の損傷がひどいと発疹が消えた後も帯状疱疹後神経痛(PHN)という「ピリピリ」「ズキズキ」「焼けるような」と表される激しい痛みに悩まされることがあります。
PHNを合併するととてもやっかいで、痛みによって生活に支障が出たり、長期に渡るペインクリニックでの治療を余儀なくされたりすることも。
また、重症化すると視力の低下や失明、顔面神経麻痺などの重い後遺症が残る可能性まであります。
・・・できることなら、一生罹りたくない病気ですね。
ですが、ウイルスが体に潜んでいる以上は、誰にでも突然発症する可能性があります。
50歳を過ぎると、年齢が上がるごとに帯状疱疹になる人が増え、80歳までに約3人に1人が発症するといわれています。
その数は、なんと年間で約60万人!
「まだ若いから関係ないや・・・」と思っているそこのあなた!
若いからと言って、油断できませんよ。
実は、最近になって若い世代の帯状疱疹が急に増えているのです。
この表は「宮崎スタディ」と呼ばれる、宮崎県で行われている帯状疱疹の世界最大規模の疫学調査の結果です。
1997年の発症率を1とし、その後21年間の割合の増加をみたものですが、全ての年代で徐々に右肩上がりに増えていることがわかります。
そして、2014年を境に、とくに20~40代の若年層の帯状疱疹の発症率(緑のライン)がぐいっと増えています。
では、2014年にいったい何があったのか?
実は、2014年10月から乳幼児に対する水痘ワクチンの定期接種が開始され、それ以降水ぼうそうに罹る子供が激減したのです。
これまで、大人は、水ぼうそうに罹った子供と知らないうちに触れ合うことによって、VZVに対する免疫が強化される「ブースター効果」を自然に得ていました。
ところが、水ぼうそうに罹る子供自体が激減したことによって、このブースター効果がなくなり、その結果として高齢者だけでなく20~40代の若年層にまで帯状疱疹の発症が増えることになったのです。
乳幼児期に接種するワクチンによって、VZVに一生罹らない人が増え、将来的(何十年か先?)に水ぼうそうだけでなく帯状疱疹も減っていくでしょう。
ですが、当面の間は、高齢化の進行と、子供の水ぼうそうの減少によるブースター効果の抑制の2つの点から、帯状疱疹の発症が増えることが予想されます。
さらに、免疫の働きが低下する病気を持っている人や、治療のために免疫を抑える薬を使用している人では、年齢に関係なく帯状疱疹を発症するリスクが高まります。
わたしたちのクリニックでたくさん診ている炎症性腸疾患(IBD)の患者さんは、ステロイド、免疫調節剤(アザニン、イムラン)、生物学的製剤(レミケード、ヒュミラ、ステラーラ、スキリージ)といった免疫を抑える薬で病気のコントロールをしている方も多く、帯状疱疹になるリスクは一般の方よりも高いのです。
とくにJAK阻害薬(ゼルヤンツ、リンヴォック)を服用されている方は、他の免疫を抑える薬よりも帯状疱疹が発症するリスクが有意に高いため、より注意が必要です。
そこで大切になるのがワクチンです。
次回は、帯状疱疹を予防する新たなワクチンについてお話します。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医