アジア諸国の内視鏡検査事情
10年以上にわたってアジアの発展途上国に出向き、実際に胃カメラ検査を行ってこられた大分大学の山岡先生の報告が、2023年12月の日本消化器内視鏡学会雑誌に載っていました。
要約すると、タイ、ベトナム、モンゴル、インドネシア、ブータンといったアジアの諸国では、
・地方都市には内視鏡設備が存在せず、検査ができるのは大都市だけ
・そもそも内視鏡をできる医師がほとんどいない
・内視鏡検査代は日本の感覚で10万円以上のため、一般市民は簡単に受けられない
・「もったいない」精神が根強く、口腔内の麻酔はごく少量または何も行わない
・内視鏡の洗浄・消毒が悲惨な状況の国も・・・
・ピロリ菌に関する理解が医師も含めて不十分
・早期胃がんという概念すらなく、医師も見たことがない
・胃がんの発症率と死亡率がほぼ同じ
・今でも胃がんを不治の病と考える国がほとんど
・・・といった、今の日本の視点から見るとある意味衝撃の内容。
対する日本は、
・内視鏡検査は、病院でもクリニックでも地方でも受けられる
・鎮静剤を使い、楽に受けられる検査はもはや当たり前
・検査代は胃カメラで約5000円(3割負担)
・内視鏡の洗浄は徹底している
・ピロリ菌感染を認めた場合は、除菌治療を行うのが常識
・多くは早期胃がんで見つかり、内視鏡治療で治癒できる
・胃がん死亡率は徐々に減少してきている
・・・同じアジアでも、ここまで内視鏡検査の事情が違うのです。
ちなみに、2010年当時のブータンでは内視鏡をできる医師が国内でたった1人だったのだそう
もう1つちなみに、その人は現在の首相!で、首相になってからも週末は外科医として診療や内視鏡検査を行っているのだとか。
あちこちに内視鏡専門のクリニックがある日本からみると、考えられませんね。
オリンパス社がまとめた各国の人口10万人あたりの内視鏡医の数は、
タイ:3.1人
ベトナム:1.1人
インド:0.7人
インドネシア:0.2人
日本:28.2人
インドネシアの10万人あたり0.2人というのは、総人口2.7億人に対して内視鏡医がたったの500人程度ということ。
ちなみに、アメリカでも10万人あたりで4.7人ですので、先進国の中でも日本が突出して多いことが分かります。
多少の地域差はあれ、日本のように内視鏡検査がどこでも当たり前のように受けられる国は、実は極めて少ないのです。
若い人の社会保険料の負担など、日本にも抱えている問題はありますが、ピロリ菌の感染を減らし、胃がんの撲滅へと向かう日本モデルは世界に誇れるものだと思います。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医