この世にかぜを治す薬は存在しない?
- 2020年12月7日
- かぜ
「治療薬が無く自然に治癒する力に任せるしかない」という話は、ノロウイルスに限らず一般の「かぜ」にも言えることです。
わたしたちのクリニックは胃腸科と内視鏡検査に特化していますので、「かぜ薬をください」と言われることはそれほどありませんが、実は言われるとちょっと困るワードでもあります。
なぜなら、本当の意味で「かぜを治す」という薬は、この世に存在しないからです。
・・・と言うと、「えっ、かぜ薬なんていっぱいあるじゃん?」と多くの方が思われるでしょう。
最近のネットニュースに、かぜ薬に関するインターネット調査の結果が出ていました。
市販のかぜ薬について、一般の方にかぜの原因となるウイルスを倒す効果があるかどうかを聞いたところ、30%の方が「すべての薬に当てはまる」、35%の方が「一部の薬に当てはまる」と答え、正解の「このような薬はない」と答えた方はたった35%であったとのことでした。
さらに、抗生剤に関しても間違った認識をお持ちの方が多いようです。
抗生剤とは、「細菌」に対して有効な薬です。ある医療機関が実施した調査では、約半数の人が「ウイルスをやっつける」と誤解しており、「効果がまったくない」と正しく認識していた人は2割以下だったそうです。かぜの原因はほとんどがウイルスですので、抗生剤を飲んでもかぜを治す効果はゼロです。
確かに昔は、かぜのときに抗生剤が処方されていました。これは、ウイルスによるかぜで免疫力が下がった時に他の細菌による肺炎などが合併するのを予防するためだったのですが、抗菌剤を先に飲んでおいても細菌感染は予防できないことが分かってきたので、最近では「かぜで抗生剤を処方しない」のが一般的となっています。
実は、かぜの原因となるウイルスそのものを撃退して治す薬、あるいは罹らないように予防するようなワクチンは、現代の医学ではいまだに作り出せていないのです。(インフルエンザは別枠なのでまたの機会に)
もしも、かぜに対する万能薬を作ることができれば、きっとノーベル賞を貰えるでしょう。
「なぜ、かぜを治す薬が作れないのか?」については後日書きたいと思います。
では、市販や医療機関で処方される「かぜ薬」っていったい何なのでしょうか?
かぜ薬には鼻水やのどの痛み、咳、発熱などを抑える成分が配合されており、「症状を和らげてウイルスと戦うための体力が奪われないようにする」ことが主な役割です。ウイルス自体を撃退する効果は全くありません。
多くのみなさんは、かぜ薬を飲むとかぜの治りが早くなると思っているのではないでしょうか?
でも、真実はその逆で、治りはむしろ遅くなる可能性があります。「ひきはじめに飲むと効く」なんていうこともよく耳にしますが、あまり根拠のない話です。
かぜのウイルスは、まず鼻や口、のどなどに付着します。そこでウイルスが増えると、炎症が起きて鼻水やのどの痛み、熱が生じます。さらに気道までウイルスが広がると、咳や痰が出るようになります。これらの症状は、免疫細胞が体内に侵入したウイルスを排除しようとして必死に戦っている証です。
鼻水やくしゃみ、咳、痰といった症状は、鼻やのど、気道で増えたウイルスを体外に出そうとしている働きによるものです。発熱は、熱に弱いウイルスに対して人間が耐えられるギリギリまで体温を上げて撃退するための大事な免疫反応です。
ノロウイルスの感染のときに、嘔吐や下痢によって腸からウイルスを排除するのと同じですね。
ですので、かぜ薬でこれらの症状を抑えてしまうとウイルスが長く留まり、治るどころかかえってだらだら長引かせてしまう可能性があります。熱が出た時にすぐに解熱剤を使うのも、確かに体は楽にはなりますが、病気を治すという観点からは本当はあまり良くないのです。咳止めもまたしかり。ノロウイルスの時に下痢止めを使わない方がよいのと同じ理屈ですね。
かぜはかぜ薬で治るのではなく、あくまで自分の持っている免疫力で自然に治癒させるしかありません。
基本的には「放っときゃ治る」のですが、ウイルスと戦う免疫力を高めて早く治すためには、ゆっくりと体を休めることが最も大切です。
睡眠を十分にとること、しっかりと水分補給すること、消化のよい食事を無理のない範囲で摂ること。乾燥すると鼻やのどの粘膜がウイルスを排除する機能が落ちるので、加湿することも重要です。
もちろん、体を休めるのが大事だと分かっていても、そう簡単には休めないお仕事や学校もあるでしょう。そんな時にはかぜ薬で症状を和らげてウイルスと戦う体力を温存するというのもありだと思います。かぜ薬の意味をちゃんと理解したうえで、乗り切るために最小限の期間だけ使うのが正しい使い方です。症状が完全に治りきるまで飲み続ける必要はありません。
さて、ここまで読んでいただくと、「かぜを引いたから病院に行った方がいい」というごく一般的な考え方が本当は正しくないということがお判りいただけるのではないでしょうか。
寒い中外へ出て、病院で長い間待たされ体力を奪われるうえに、他の感染症を貰ってしまう危険性もある・・・そもそも市販のかぜ薬と医療機関で出す薬にも大差はありません。
・・・なんて書いちゃうと、かぜの患者さんをたくさん診ている一般内科のクリニックさんから怒られそうですけどね。
もちろん、細菌が原因となってかぜと似たような症状を引き起こす肺炎、扁桃炎、溶連菌感染、副鼻腔炎などもありますので、高熱が続いたり、安静にしていても改善しないような場合は医療機関で診てもらうことも必要です。あくまで、鼻水から始まってのどがイガイガ、咳と微熱が少々・・・ぐらいの症状なら、大抵は家でおとなしくしているだけで問題ないという話です。
じゃあ、医療機関に受診した「普通のかぜ」の患者さんに対して医師がどういった対応をしているのか?というと・・・
「かぜに薬なんて必要ありません」と懇々と説明し、患者さんの理解を得るには時間も労力も必要です。さらに、患者さんが望んでいることとは真逆ですので、だまって薬を処方している先生の方が圧倒的に多いというのが現実でしょう。
経営面からも患者さんに来てもらわないと困るという現実もありますし・・・
でも実は、「かぜを引いてわざわざ行ったのに、ろくに薬もくれない!」という方が、意外と患者さん思いの信頼できる病院なのかも知れませんよ。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ