胃酸を抑える薬の長期服用で胃がんができる!?
ピロリ菌の感染は胃がんの大きなリスクであり、除菌することで胃がんの発症を約3割程度抑えられます。
ところが、せっかくピロリ菌を除菌しても、その後に長期にわたって「胃酸を抑えるお薬」を飲んでいると、胃がんができやすくなることが分かってきました。
えっ!! 胃薬を飲んでいる方が胃がんになるの!?
・・・ある意味、衝撃的ですね。
詳しく解説します。
「胃酸を抑えるお薬」は、大きく分けて3種類あります。
① ヒスタミン受容体拮抗薬(H2RA):ガスター、プロテカジン、アシノンなど
② プロトンポンプ阻害剤(PPI):タケプロン、パリエット、ネキシウムなど
③ カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB):タケキャブ
胃酸の分泌を抑える効果は①<②<③で、P-CABが最も強力なお薬です。
そしてこの中でPPIとPCABが、ピロリ菌除菌後の胃がんの発生に関わるという報告がでてきています。
まず、2018年に報告されたピロリ菌除菌治療後の63,397 人を調査した香港の研究(Cheung KS, et al. Gut 2018)において、PPIと胃がんと発生との関連が示されました。
この研究では、除菌治療後平均 7.6 年の観察期間中に153 人(0.24%)の方に胃がんが発生しました。
除菌後にPPIを服用していた方は胃がん発生のリスクが 2.44 倍に増加し、服薬期間が1年以上で 5.04 倍、2 年以上で 6.65 倍、3 年以上で 8.34 倍と、期間が長いほどリスクが増加することが示されました。
一方、H2RA の使用は、胃がんのリスク比0.72倍とリスクの増加は認めませんでした。
さらに今年、日本の東大を中心とした研究グループから、ピロリ菌除菌治療後の54,055人の日本人を対象に、P-CAB、PPI、H2RAをそれぞれ服用していた患者の胃がん発症リスクを調べた研究結果が報告されました。(Arai J, et al. Clinical Gastroenterology and Hepatology 2024)
この研究では、除菌治療後平均 3.65 年の観察期間中に胃がんが発症したのは568例(1.05%)でした。
胃がんリスクと関連しないとされるH2RAをピロリ菌の除菌後に服用していた患者と比較したところ、P-CABを服用していた患者は胃がんの発症リスクが有意に高く(ハザード比[HR]:1.92、95%信頼区間[CI]:1.13~3.25)、P-CABの服用期間が長いほど、また服用量が多いほどリスクが上昇することも示されました。
そして、P-CABとPPIの服用患者で比較したところ、統計的に差はなく、同じ程度の胃がん発症リスクを有していることも分かりました。
なぜ、ピロリ菌除菌後に「胃酸を抑える効果が強いタイプ」のお薬飲んでいると、胃がんが発生しやすくなるのでしょうか?
胃酸を強く抑えるお薬の長期にわたる投与によって、
・胃粘膜の萎縮が進行すること
・高ガストリン血症が引き起こされること
・胃にすみ着く細菌の種類が変化すること
などがそのメカニズムとして想定されていますが、まだ十分に解明されていません。
何れにせよ、ピロリ菌の除菌後に残る慢性的な胃粘膜の傷害に、PPIまたはP-CABによる影響が相乗効果をもたらし、胃がんの発生リスクを増大させることが考えられます。
強調しておきたいのは、これはあくまで「ピロリ菌の除菌治療後の患者さん」の場合に限った話だということ。
ピロリ菌に感染したことがない患者さんを対象とした研究では、PPIの長期服用と胃がん発生の関連は報告されていません。
ピロリ菌の除菌後には、胃酸の分泌が除菌前よりも増えることがあり、除菌後に「胃が痛い」「胸やけする」といった症状が出て、胃酸を抑える薬が必要になる方が少なからずおられます。
症状を抑えるために長期に飲まざるを得ないこともありますが、できれば休薬する、服薬する量を減らす、P-CABやPPIからH2RAに変えるなどの工夫が必要です。
ただ漫然と薬を飲んでいては、せっかく除菌で下がった胃がん発生のリスクをまた上げることになりかねません。
ピロリ菌除菌後の方は、胃酸を抑えるお薬の「ダラダラ飲み」に注意しましょう。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医