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潰瘍性大腸炎の新薬:リンヴォック

潰瘍性大腸炎の新薬:リンヴォック

2022年9月、潰瘍性大腸炎の治療薬として、ウパダシチニブ(リンヴォック®)という新たな選択肢が加わりました。

今年になって3剤目の新薬になります。

 

リンヴォックは「ヤヌスキナーゼ(Janus kinase:JAK)阻害薬」というジャンルに分類される内服薬です。

潰瘍性大腸炎の治療としては、2018年5月に承認されたゼルヤンツ(一般名:トファシチニブ)、2022年3月に承認されたジセレカ(一般名:フィルゴチニブ)に次ぐ、3剤目のJAK阻害剤になります。

「JAKとは何ぞや?」という話は、ジセレカが承認された時のブログに詳しく書いていますので、ご参照ください。(潰瘍性大腸炎の新薬:ジセレカ錠

 

ごく簡潔に言うと、「サイトカインという炎症を起こす物質の働きを、刺激の伝達を断つことで抑えるお薬」がJAK阻害薬です。

潰瘍性大腸炎の患者さん以外にも、関節リウマチや乾癬など、免疫の異常で慢性の炎症が起きる病気の治療薬として使われています。

アッヴィ合同会社医療関係者向け情報サイトA-CONNECTより

 

では、既に使われているゼルヤンツ・ジセレカと、今回承認されたリンヴォックでは何が違うのでしょうか?

 

一番の違いは、炎症を抑える「パワー」だと思っています。

 

治験のデータをみると、リンヴォックによる治療を開始してから8週後に症状が改善する方が70%以上、約3割の方が寛解になります。

TNF阻害剤(レミケード、ヒュミラ、シンポニー)や抗IL-12/23抗体(ステラーラ)といった生物学的製剤の治療がうまくいかなかった方に投与した場合にも、よく効きます。

 

この治療成績は、これまで潰瘍性大腸炎に使われてきた生物学的製剤やJAK阻害薬と比べると非常に優秀で、それだけ腸の炎症を抑える力が「パワフル」、かつさまざまなタイプの患者さんに幅広く効くと言えます。

また、効くまでの「スピード」も速く、薬を飲み始めて2-3日で有効性を実感できる方も多くいらっしゃいます。

 

そして、ゼルヤンツ・ジセレカにはない特徴として、リンヴォックはアトピー性皮膚炎の治療薬としても承認されていることが挙げられます。

潰瘍性大腸炎の患者さんの大腸粘膜には、好酸球というアレルギーと関連の深い白血球が多くみられることがあり、「腸のアトピー」とも呼ばれています。

こうした潰瘍性大腸炎の発症にアレルギーが強く関わっていると考えられるタイプの方にも、リンヴォックがよく効く可能性があります。

 

一方で、これだけ効果が高いパワフルな薬だと、心配になるのは副作用です。

 

サイトカインは、過剰になりすぎると慢性炎症を引き起こしますが、普段はウイルスなどの感染から身を守ったり、血液を作ったり、ヒトの体が健康な状態を維持していくためにも大切な働きをしています。

 

実際、最初に承認されたゼルヤンツは、よく効く反面、サイトカインの働きを広く抑えるために、帯状疱疹や血栓症、高コレステロール血症といった副作用が現れることが報告されています。

 

2番目に承認されたジセレカは、JAKを抑える範囲を限定し、かつ投与量も少なめなので、帯状疱疹などの副作用の懸念が少ないことが特徴のお薬です。ただしその分、他のJAK阻害薬より炎症を抑える効果もやや弱い印象です。

 

今回承認されたリンヴォックは、帯状疱疹の発症が1年間の投与中に3〜4%みられるものの、懸念された心血管系イベントや貧血、悪性腫瘍の発生などの重篤な副作用の心配はないようです。

ただし、あくまで治験の成績なので、実際の患者さんに長期に投与した際に問題が起きないかどうかについては、今後注意してみていく必要があります。

また、他のJAK阻害薬と共通していることですが、妊娠中や妊娠を希望されている場合には服用できません。

 

総じて言うと、リンヴォックは、炎症を早くしっかり抑えるという「攻めのJAK阻害薬」でありながら、強い副作用が少ないというギリギリを狙ったバランスがよく取れている印象です。

 

生物学的製剤の治療がうまくいっていない難治の方や、急に悪化して「さらに悪くなったら入院になるかも・・・」という「待ったなし」の潰瘍性大腸炎の患者さんが、リンヴォックのよい適応だと考えています。

当クリニックでは、すでに3名の患者さんにリンヴォックの投与を行っていますが、今のところよく効いています。

新たな治療の選択肢が増えることで、入院治療や手術が必要になるような潰瘍性大腸炎の患者さんが、一人でも減ることを願っています。

 

西宮市田中町5-2西宮駅前メディカルビル3F

「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ

 

日本消化器内視鏡学会専門医 

日本消化器病学会専門医、評議員

日本消化管学会胃腸科専門医

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