潰瘍性大腸炎の新薬「コレチメント」と新たなSDM
潰瘍性大腸炎(UC)の患者さんの炎症を抑える寛解導入治療薬として、2023年9月からコレチメント錠(一般名:ブデソニド)という新しいステロイド製剤が使えるようになりました。
UCの基準薬である5-ASA製剤(ペンタサ、アサコール、リアルダ)を用いても炎症を抑えきれない場合、あるいは5-ASAがアレルギーのために使えない場合(不耐)には、ステロイドを使って炎症を抑えるというのが治療の次のステップです。
ステロイドは大変よく効くお薬であり、中等症の活動性UC患者さんに対する経口ステロイド(プレドニン)治療は、今でもとても大切な役割を担っています。
ただ、問題となるのは、その副作用。
ステロイドには、ニキビ、顔が丸くなる、倦怠感、不眠、糖尿病、骨粗しょう症、白内障・・・といったみなさんが気になる全身の副作用が生じる可能性があります。
「しっかり使い、短期でやめる」というステロイド治療の鉄則に準じて使えば、多くの副作用は避けられるとは言え、患者さんにとっては「できればステロイドは使いたくない」・・・と言うのが本音なのではないでしょうか?
そこで、炎症があるところには効いて、全身に起こる副作用は少ないという「理想のステロイド」の開発が進んできました。
今回、新薬として承認されたコレチメントは「ブデソニド腸溶性徐放錠」というタイプのステロイド製剤です。
海外では、EUを中心とした75以上の国や地域ですでに使われています。
ブデソニドは、患部(局所)では高い抗炎症効果を発揮し、体内に吸収されてからは速やかに分解されるように設計された「アンテドラッグ」という第2世代ステロイドです。
さらに、MMX(Multi Matrix System)という薬物送達技術を用いて、UCの炎症がある大腸にたどり着いてからブデソニドがゆっくりと溶け出すように設計されています。
また、1日1回1錠(9mg)を朝に飲むだけでよい経口薬であることから、利便性が高く、飲み忘れも少なくなることも期待できます。
ブデソニドはこれまでに、気管支喘息の吸入薬(パルミコート)や、クローン病の内服薬(ゼンタコート)として使われており、実は、UCにも泡の注腸製剤「レクタブル」としてすでに使われています。
コレチメントは、言わば「飲むレクタブル」。
お尻から入れるレクタブルでは届かない、大腸全体の炎症を抑える効果が期待できますし、飲み薬でありながらこれまでのプレドニンのような全身に起こる副作用の心配が少ないのが特徴です。
じゃあ、プレドニンの代わりにコレチメントで全部解決するのかと言うと・・・
治験のデータなどを見ていると、残念ながらどうもそうではなさそうです。
高い有効性・即効性があり、重症UC患者さんの治療にも実績があるプレドニンと比べると、コレチメントには短期間に劇的に効くというほどの「切れ味」はあまり期待できないようです。
どちらかというとマイルドに効くイメージですので、コレチメントの適応になりそうな実際のUC患者さんは、
・5-ASA製剤だけではすっきりと治りきらない
・ちょい悪(軽症~中等症)状態でくすぶっている
ような方ではないかと考えています。
実はこの対象となる患者さんは、2022年5月から使えるようになったα4インテグリン阻害薬カロテグラストメチル(カログラ)とかぶります。
では、5-ASA製剤の次の治療として、従来のプレドニン、新薬のコレチメントとカログラの3種類の飲み薬を、どうやって使い分けるのか?
薬の特徴、メリット、デメリットを考えながら皆さんと一緒に薬を選ぶ、新たなShared Decision Making(SDM)が必要になってきました。
そこで、5-ASAの次の治療のSDMが理解しやすくなるように、新たな資料を作成しました。
治療を選ぶ上での参考になれば幸いです。
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医