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ひだ胃腸内視鏡クリニック

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医学の常識を吹き飛ばしたピロリ菌の物語

医学の常識を吹き飛ばしたピロリ菌の物語

「ピロリ菌」の正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ」、人の胃の中で生息する菌です。

今や、一般の方もよくご存じで、患者さんから胃カメラの時に「ピロリ菌がいるのか調べてください。」と言われることも少なくありません。

でも、30数年前までは「胃の中に菌なんているわけがない!」が医学の常識でした。

それまでにも、胃の中にらせん型の菌がいるという説は胃の組織を顕微鏡で見た病理医から何度か出ていましたが、「胃の中は強い酸性だからその中で生きられる菌なんか絶対にいない。見えたのは、ただのゴミだよ。」という扱いでした。

ところが1982年、オーストラリアのウォレン博士とマーシャル博士が、ついにピロリ菌の培養に成功し、胃の中に菌が生きていることを証明したのです。

実は、この成功の裏には、隠されたドラマがありました。

通常、細菌を培養する際には、菌を培地に植えて、2日間培養します。ところが、胃の中の菌は、その方法ではうまく培養できませんでした。
失敗続きの中で、当時助手だったマーシャル博士がたまたまイースターの休暇をとり、培養器の中に菌を5日間ほったらかしにしてしまいました。

・・・ところが、帰ってきてみると、なんと培地に菌が育っていたのです!

これまでの常識とは異なり、ピロリ菌は培養に長い時間を要する菌でした。また、その後の研究で、ピロリ菌には自分の周りの酸を中和する特殊な能力があり、胃の中でも生きられることが分かりました。

この偶然がもたらした世紀の大発見により、これまでの医学の常識が吹き飛ぶことになります。

これまで、ストレスや暴飲暴食、喫煙などの生活習慣が胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因とされていましたが、その「犯人」はピロリ菌ではないのか?
両博士の説は、発表当初、学会から疑いの目でみられました。
「犯人」だと断定するためには、確かな証拠が必要です。

誰にも文句を言わせない証拠を得るために発見者のマーシャルがしたことは、・・・なんと培養したピロリ菌を自ら飲むことでした!
菌の塊を飲んだ1週間後に食欲の低下や嘔吐といった症状があらわれ、胃カメラでみると急性胃炎がおこっていました。そして、組織を調べると、確かにあのらせん菌がいた!

この勇気ある、ある意味常識破りの体を張った実験で、ピロリ菌が胃炎を引き起こすことを証明してみせたのです。

そして、さらに、抗生剤で除菌すると胃炎や潰瘍が治ってしまうことが明らかとなり、ピロリ菌が犯人、それもバリバリの「主犯」であることが確固なものとなりました。

胃炎や胃潰瘍の治療と言えば、胃酸を抑えたり、胃粘膜を保護したりする薬を長い間飲むのが常識だったものが、抗生剤を短期間飲むだけで治ってしまい、再発もしなくなる
・・・それはもはや、「革命」でした。

その後、ピロリ菌は胃炎や潰瘍だけでなく、胃がんやリンパ腫といった悪性腫瘍、特発性血小板減少性紫斑病、子供の鉄欠乏性貧血、慢性じんま疹など全身の病気の原因であることも分かってきました。
日本人に胃がんになる人が多いのは、ピロリ菌の感染率が高かったからなのです。

2005年、発見者のお2人にノーベル医学生理学賞が授与されました。
「胃の中で生きられる細菌なんているはずがない」という思い込みにとらわれない探求心が、ノーベル賞に値する偉大な発見をもたらしたのです。