ホットorコールド?大腸ポリープ治療の革命
蒸し暑い梅雨の最中、いかがおすごしでしょうか?
自販機の飲み物もこの時期にはすっかり「ホット」から「コールド」に変わっていますが、内視鏡の世界も「ホット」から「コールド」に移り変わってきています。
大腸ポリープ(腺腫)を内視鏡で取る際には、スネアという輪っかをかけて切除します。
これまでの常識は「大腸ポリープをそのままちぎると出血してしまうから電流で焼きながら切る」でした。熱を加えるため「ホット」ポリペクトミーとも呼ばれます。
ところが、高周波の電流をかけて焼き切ると、確かに切った直後に出血することは少ないのですが、治療後しばらくしてから出血を起こすことがありました。
熱で焼き切るとその部分は「やけど」のような状態になります。「やけど」は後からじわっと広がりますので、そこに太い血管があると出血してしまうのです。
また、大腸の壁は4〜5mmとすごく薄く、胃の壁の半分しかありません。電流が腸の壁深くまで伝わってしまうと、腸に穴が開く(穿孔)の危険性もゼロではありません。
数年前から行われるようになった「コールド」ポリペクトミーは、1cm以下の大きさの大腸腺腫に対して熱を加えずにそのままスネアでスパッと切る方法です。
熱を掛けずに切りますので取った直後には少し出血しますが、すぐに自然に止まります。
今までの方法の「やけど」と違い、コールドポリペクトミーでポリープを取った跡は「擦り傷」のようなものですので、太い血管や腸の壁の深いところまで傷つけません。そのため、後から出血したりや穿孔したりする確率が限りなくゼロに近いと報告されています。
また、コールドポリペクトミーは、抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)を内服されている方であっても、後から出血する危険性が上がらないということも報告されています。
より安全に、しかも切除の手間が少なく短時間で複数の大腸腺腫を切除できるようになるというメリットから、あっと言う間にこのコールドポリペクトミーが広まりました。
ただし、1cmを超える大きさのポリープや、がんを疑う場合などは、切除の際に激しく出血したり、取り残したりする危険性がありますので、従来のポリペクトミーや粘膜切除術という方法で熱を加えて焼き取ることが必要です。
出血しないようにと始まった「電流で焼き切る」方法よりも、「そのまま切る」方が実は良いなんて、10年ぐらい前には誰も思っていませんでした。
まさに常識を覆す治療の革命です。
今、内視鏡の世界では、「ホット」より「コールド」の方が熱いのです。
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「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸の公式ブログ