IBDの患者さまの診療は、わたしのライフワークです。
これまでに国内屈指の患者数を誇る兵庫医科大学病院において、のべ2,000例以上のIBD患者さまの診療に携わってきました。IBDと一口に言っても、それぞれの患者さまが抱えておられる症状や病態、困っておられることはさまざまです。これまでの経験と知識を生かして、IBDの患者さまが少しでも楽しく学校生活が送れるように、安心してお仕事が出来るように、ご家族と穏やかに暮らせるように、お手伝いをさせていただきたいと思います。
当クリニックでは2024年度の1年間に455名(潰瘍性大腸炎392名、クローン病63名)のIBD患者さんの診療に当たりました。詳しい実績はこちら。
また、2024年にわたしは日本炎症性腸疾患学会IBD専門医および指導医(兵庫県で25名)に、当院は指導施設(クリニックでは兵庫県で4施設)に認定されています。
クリニックと病院で受けるIBDの治療の違い、メリット・デメリットなどについては、こちらのリンクをご参照ください。
「IBD専門クリニックの院長に聞いてみた。大きな病院とココが違う!」
IBDの原因や最新の治療など、様々な情報を発信している院長のIBDに関するブログはこちらです。
当クリニックは「難病法の基づく指定医療機関」および「小児慢性特定疾病医療機関」です。
現在お持ちの受給者証にクリニックの記載がなくても、問題なく使用できます。医療機関の追加・削除などの変更申請は不要ですので、安心してご来院ください。
クリニックでは血球成分除去療法を除く他のすべての保険治療に対応しています。生物学的製剤の点滴療法も、快適な環境でお受けいただけます。
IBDとは、腸を中心とした消化管の粘膜に慢性の炎症がおきる病気のことです。一般的には、潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC)とクローン病(Crohn’s Disease:CD)の2つの病気をIBDと呼んでいます。どちらも特定疾患(いわゆる難病)に指定されている病気ですが、日本人の患者さまは年々増えており、2020年現在UCは少なくとも22万人、CDは7万人以上いらっしゃると推定されています。
20歳代前後の若い方を中心に発症し、下痢、血便、腹痛などを生じます。症状の経過はさまざまですが、多くの方は再燃(悪くなること)と寛解(落ち着くこと)を繰り返します。原因不明と言われていますが、発症のきっかけとなる要因の解明は進んでおり、主に環境の変化がこの病気になる方を増やしているのではないかと考えられています。詳しくは院長ブログをご参照ください。
UCは大腸の粘膜に炎症が起きる病気です。この病気の最大の特徴は、直腸(肛門付近)から炎症が起き、口側の大腸に連続的に広がる性質があることです。炎症の範囲が最も狭い方を直腸炎型、S状結腸〜下行結腸まで炎症が広がった方を左側大腸炎型、横行結腸よりさらに口側に炎症が広がった方を全大腸炎型と呼びます。「なぜ、UCの炎症が直腸から始まるのか?」については大きな謎であり、未だに全く分かっていません。症状は炎症の程度と範囲によって様々ですが、血便がでることが特徴的です。
CDは小腸と大腸を中心とした消化管に炎症が起きる病気です。とくに盲腸付近に炎症が起きることが多いのですが、口から肛門までどの部位にも炎症は起こり得ます。UCとは違い、病変は連続性ではなく、とびとびに起こるのが特徴です。また、腸の表面の粘膜だけでなくさらに深い部位まで炎症が及ぶために、腸が硬く狭くなったり(狭窄)、腸管に孔が開いたり(穿孔)、腸の外に膿が溜まったり(膿瘍:のうよう)、腸と腸あるいは腸と皮膚などにトンネルができたり(瘻孔:ろうこう)することがあります。20歳代の男性に発症することが多く、腹痛や下痢、発熱、体重減少、肛門痛などの症状がみられます。血便はUCほど多くは認めません。
残念ながら現時点ではIBDを根本から治すような治療方法はありません。しかし、病気の原因や本質はどんどん解明されてきており、それに基づく治療法も近年飛躍的に進歩しています。適切な治療を受ければ、多くのIBD患者さまが健康な方と変わらない日常生活を送れるようになってきました。
腹痛や下痢・血便などの症状がある状態を活動期、症状が治った状態を寛解期と呼びますが、治療の最初の目標は寛解期を目指すことです。そして、治療によって寛解になったあとも、病気が再燃しないように治療を止めずに継続することが大切です。
また、発症後長期に経過すると大腸がんの危険性が高まることから、病気が落ち着いている時期にも定期的にがん検診のための内視鏡検査(サーベイランス)を受けることがとても大切です。
病状によっては入院治療が必要になったり、外科治療が必要になったりする場合があります。また、病気の評価のために、小腸内視鏡などの特殊な検査が必要なこともあります。クリニックでは専門施設である兵庫医科大学病院消化管内科(IBDセンター)・炎症性腸疾患外科と連携を取りながら、個々のIBD患者さまに最適な治療を行います。
ここ数年、新たな治療薬が次々に登場していますが、それぞれのお薬の特徴をしっかりと把握して使い分けることは、IBD患者さまを診療する専門家でも簡単な事ではありません。また、病状やライフスタイルに合わせてどのお薬から使うべきか、いつ効果を見極めるべきか、効かなかった時に次にどうするべきかなどは、教科書や治療指針には載っておらず、経験がものを言う世界です。治療でお困りの方は、ぜひ一度当クリニックにご相談ください。
潰瘍性大腸炎およびクローン病に対する生物学的製剤、低分子製剤の治療実績はこちらをご参照ください。
5-ASA製剤は腸の炎症を抑える効果があり、かつ長く服用しても安全性が高いことから、IBDの基準薬として症状が比較的軽い方の寛解導入治療(活動性の炎症を抑える治療)から寛解維持治療(炎症が落ち着いた状態を維持する治療)まで幅広く使用されています。
5-ASA製剤は、一旦体に吸収されてから効くお薬ではなく、腸に直接作用して炎症を抑えるタイプのお薬です。効果を発揮するためには、炎症を起こしている腸までお薬が吸収されずにたくさん届くことが重要です。同じ5-ASA製剤でも、個々の患者さまで最適な種類や必要な量は異なります。炎症の程度に応じて、用量を増やす、ゆっくり溶けて大腸に届きやすいタイプのお薬(リアルダ®︎、アサコール®︎)を使う、炎症が起きている直腸やS状結腸に直接届く坐剤や注腸を併用するなどの工夫が必要になります。
また、安全性が高いお薬ですが、時として体質に合わず、服用を初めて数週間で発熱や下痢などのアレルギー症状が出る方(5-ASA不耐症)がおられますので、注意が必要です。
栄養療法は、食事による症状の悪化を避ける目的でCD患者さまに用いる治療法です。経腸栄養は、脂肪をほとんど含まず抗原性の少ないアミノ酸を主成分とした成分栄養剤(エレンタール®︎)を主に用います。栄養の状態を改善するだけでなく、腸の安静と食事の刺激を取り除く事で炎症を抑える効果があります。うまく受け入れられれば副作用がほとんど無い安全な治療です。炎症が起こっている部位や程度に応じて、多くは薬物治療と併用して行われています。
ステロイド製剤は炎症を抑える効果が高いお薬であり、病変の部位や炎症の程度に合わせて口や肛門から、あるいは点滴で投与します。主に中等症から重症のIBD患者さまの寛解導入治療として用いられます。骨粗鬆症、白内障などの副作用に注目が集まりがちですが、上手く使いこなせれば非常に有効なお薬です。
ステロイド製剤は漫然とした使用を避けることが大切であり、短期間の使用に限れば副作用は最小限に抑えられます。再燃を予防する効果は認められていませんので、寛解期になったら速やかに中止することが望まれます。ステロイドによる治療が効果不十分な場合や、ステロイドの減量・中止によって増悪する場合は難治性の状態と考えられ、免疫調整剤や生物学的製剤など、他の治療の追加を考慮します。潰瘍性大腸炎に用いる注腸製剤「レクタブル」について詳しくはこちら。潰瘍性大腸炎に用いる新たな経口ステロイド製剤の「コレチメント」について詳しくはこちら。
2022年春に新たに承認されたカログラは、日本で開発された世界初のインテグリンを阻害する飲み薬(低分子化合物)です。炎症を引き起こす大元である活性化したリンパ球が、大腸の粘膜に過剰に集まらないようにすることで、潰瘍性大腸炎の炎症を抑えます。
カログラが適応となるのは、5-アミノサリチル酸製剤による治療効果が不十分な、中等症のUC患者さんです。カログラについて詳しくはこちら。
免疫調整剤(チオプリン製剤)は、ステロイド製剤を減量・中止すると病状が悪化してしまうステロイド依存のIBD患者さまにおいて、ステロイドの減量効果と寛解維持効果が期待できるお薬です。また、抗TNFα抗体製剤であるレミケード®︎と併用することで、効果が落ちるのを防ぐ効果も期待できます。
安価でありながら効果が高いお薬ですが、100人に1人の割合で白血球現象や全脱毛といった重篤な副作用が起こることがありました。新しく服用を始める患者さまには、NUDT15という免疫調整剤の代謝に係わる酵素の遺伝子のタイプを調べることで、安全に服用できる体質かどうかを事前に見極めることができるようになりました。
ステロイド製剤による治療に抵抗性を示す難治性UC患者さまの寛解導入に有効なお薬です。タクロリムスは口から飲むお薬ですが、代謝に個人差があり、血液検査でお薬の濃度を見ながら調節する必要があります。投与の初期は、入院で用量の調整を行う方が安全かつ有効性が高いため、治療が必要と判断した患者さまは治療経験が豊富な兵庫医科大学にご紹介いたします。過去に使用歴があり、必要な用量が分かっている方などは、クリニックでも対応可能です。
IBD患者さまにおいて炎症を起こす基になっているTNFαという物質の作用を抑えるお薬です。とくにCDの患者さまにおいて治療効果が極めて高く、即効性があるお薬です。また、難治性のUC患者さまにおいても有効なお薬です。
炎症を抑える効果が認められた場合は、インフリキシマブは8週ごとに点滴注射、アダリムマブは2週ごとに皮下注射、ゴリムマブは4週ごとに皮下注射が維持治療として行われます。アダリムマブとゴリムマブはご自宅でご自身で注射することも可能です。
ベドリズマブ(エンタイビオ®︎)は炎症を起こす基のひとつであるリンパ球の表面にあるα4β7インテグリンという物質に作用し、リンパ球が血管を通り抜けて腸の組織内に入り込まなくすることにより炎症を抑えるお薬です。IBD患者さまの腸で起きている過剰な免疫応答を抑える働きがある一方で、全身の免疫は抑えないため、安全性が高い治療薬です。炎症を抑える効果が認められた場合は、8週ごとに点滴注射を行います。
ウステキヌマブ(ステラーラ®︎)は炎症を起こす基のひとつであるIL(インターロイキン)-12およびIL-23という物質の作用を同時に抑える薬剤です。CD患者さまだけでなく、2020年5月にUCの患者さまに使用できるようになり、期待がもたれています。初回は点滴で注射し、2回目は8週後に皮下注射、以降12週毎に皮下注射を維持治療として行います。効果が弱い場合は8周毎の皮下注射を行います。抗TNF-α抗体製剤の効果が低かった患者さまにおいても有効性があると報告されています。
リサンキズマブ(スキリージ®︎)とミリキズマブ(オンボーⓇ)は、炎症を起こす基のひとつであるIL(インターロイキン)-23という物質の作用を抑える薬剤です。IL-23は、慢性炎症の根源とも言えるサイトカインであり、すでに腸炎が慢性化してしまっているIBDの炎症を鎮めるためは、このIL-23をいかにしっかりと抑えるかが重要になってきます。有効性とともに高い安全性も期待できる薬剤と考えられ、注目されています。クローン病に承認されたスキリージについて詳しくはこちら。潰瘍性大腸炎に承認されたオンボーについて詳しくはこちら。潰瘍性大腸炎に承認されたスキリージについて詳しくはこちら。
従来の薬とは異なる新しい作用により体の免疫システムの異常に働きかけて炎症を抑える飲み薬です。サイトカインという免疫応答に重要な物質のシグナルを伝えるJAKをお薬が抑えることにより、腸の炎症が改善します。ステロイドの効果が乏しい患者さまだけでなく、抗TNF-α抗体製剤の効果も乏しい患者さまにも効果が期待されています。治療中に帯状疱疹や血栓症などの副作用が現れる懸念があり、注意が必要です。
2022年3月に承認されたジセレカは、ゼルヤンツよりも免疫を抑える範囲を限定することで、より安全性が高まったJAK阻害薬です。ジセレカについて詳しくはこちら。
2022年9月に新たに承認されたリンヴォックは、非常に高い有効性を示すお薬です。生物学的製剤の治療がうまくいっていない難治の方や、急に悪化して「さらに悪くなったら入院になるかも・・・」という「待ったなし」の潰瘍性大腸炎の患者さんが、リンヴォックのよい適応だと考えています。リンヴォックについて詳しくはこちら。
2024年7月改定
2023年4月改定
「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班ホームページ
http://ibdjapan.org/
①新型コロナウイルスとIBDに関する情報:JAPAN IBD COVID-19 Taskforce
http://ibdjapan.org/task/index.html
②患者さま向け情報(PDFでダウンロード可能)
http://ibdjapan.org/patient/
西宮市田中町5-2西宮駅前メディカルビル3F
「ひだ胃腸内視鏡クリニック」院長 樋田信幸
日本消化器内視鏡学会専門医
日本消化器病学会専門医、評議員
日本消化管学会胃腸科専門医